廃墟となったホテルへ
投稿者:スエヒロガリ (4)
私が高校2年生の夏の話です。
私が入った高校には歴史文化コースというクラスが1クラスあり、普通クラスより歴史の授業が多く、週に一回は歴史博物館や歴史研究所に行ったり、重要文化財である寺院を見学したりしていました。
そして夏休みなのに暑い中、発掘作業体験やその手伝いと言う授業もありました。
発掘作業をしている教授先生方は、いつも発掘作業をしながら、昔の人が今私たちのいる場所でどんな生活をしていたか想像しながら作業をしている、と夢見る顔で発掘ロマンを語ってくださっていました。しかし私たちはまだ子供だったのか、「大昔の人の物なんか呪われているかも」などと言ってふざけ合っていたのでした。そんなことより、大切な夏休みの一日がつぶれたことに文句まで言っていました。
その次の日、仲のいい男女で集まって近所の河原で水遊びをしながらまた、発掘作業の文句ばかりを話していました。するとメンバーの一人が川の対岸の崖の上にある10年以上前に廃館になったホテルを指さしながら、「あそこにも昔の人の生活があったのだぜ」と冗談を言ってみんなを笑わせ、「暗くなったら入ってロマンを感じに行こう」と言いだしたのです。つまり肝試しです。
怖いと言えば怖かったのですが、ノリでみんな賛成し、その河原で暗くなるのを待つことにしました。
7時頃になり周りが薄暗くなりかけた頃そろそろ出発しようとホテルを見たその時、仲間の一人が「ぎゃー」と叫んだのです。一瞬のことでした。崖の上にあるホテルの窓から人らしきものが川へ落ちていったのです。
本当に薄暗くて分からなかったのですが、怖くなって黙って家に帰ることにしました。誰も見に行こう、とは言いませんでした。
ただみんな同じものを見ていて恐怖感でいっぱいでした。次の日のローカルニュースを見てもあの廃ホテルに自殺者がいた、とか死体があがったなどという話はありませんでした。それで、私たちが見たのは幻、あるいはそこで亡くなった人の亡霊だったのか、と話をしていました。
私たちが発掘作業が呪われているなどと馬鹿にしていたからだ、とも話をしていました。
誰も匿名で警察に通報しなかったなら
植え込みの中でひっそり白骨化するばかり。ニュースになるわけない。
ご冥福をお祈りします。