店内アナウンス
投稿者:ねこじろう (154)
Nさんは俺の隣の椅子に座ると、険しい表情でさっきの女の特徴を聞いてくるもんだから素直に答えると、こんなことを言い出した。
「実はな、去年のちょうど今くらいのことなんだが、お前と同じくらいの大学生のバイトがいたんだよ。
ある土曜日の深夜、そいつお前と同じように、ここで休憩を取っていたんだ。
そしたら突然子供が迷子になったと、女が入って来たそうだ。
ありきたりな白いブラウスに地味なブラウンのスカート姿だったらしい。
顔ははっきりとは見えなかったそうだ。
そう、お前がさっき見たような感じ。
そして子供は3歳で、特徴は白い野球帽に赤いトレーナーということだったそうだ。
そしてそいつが店内アナウンスをした後改めて見た時には女の姿はなかったらしい」
「で、男の子は見つかったんですか?」
俺の質問にNさんは暗い顔で首を振ると続ける。
「結局その日子供は見つからなかったので翌日にまた女が来た時、警察呼びましょうか?と言っても自分で捜すから大丈夫ですなんて言うんだよ。
その後も何度となく子供のことを聞きに、ここに来た。
そして終いにその女どうしたと思う?」
俺は見当もつかなかったから首を振った。
Nさんは1つ大きくため息をつくと、こう言った。
「うちの店舗入口前で灯油を頭からかぶって火を点けたんだ。
もちろん間もなく亡くなった」
「!!!」
一気に心臓が激しく脈打ちだす。
生暖かく気持ち悪い汗が頬をつたっている。
小刻みに震えている両膝を必死に押さえながら、
「いや、、、
だ、、だって、、、
さっきは確かに、、、」と、
しどろもどろに呟いていると、
Nさんは淡々と続けた。
「それとな、これはその後訪ねてきた警察の話で分かったのだが、去年の夏初めて息子を捜してうちのスーパーに来た一月ほど前まで、その女は市内にある古い住宅街の一軒家で幼い息子と2人で暮らしていたらしい。
ある日女は息子を家に残したまま、うちのスーパーに買い物に行ったそうだ。
不幸なことにその短い間に家が火事になり全焼した。
最近の事案もそうてすが、子を持つ親には数十秒の油断も出来ない様ですね。
ご冥福をお祈りします。