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ヒトコワ

窓際族さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

新人潰しのS
短編 2022/10/16 23:18 5,055view
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知人の同級生にS君という男の子がいた。
S君は大人しく物分かりの良い性格で、昔から一度たりとも問題を起こしたことはなかった。
おまけに成績はいつもトップクラス。
こんな感じであるためか、まれに不良に絡まれることもあったが、基本的には誰にも好かれることもなく、誰とも敵対することもなくまさに優等生型のモブキャラといった状態だったらしい。

そんな彼が変わったのは社会人2年目になってから。
言うまでもなく社会人になってからの彼も真面目そのものだった。
無断欠勤どころか遅刻もなし。
有給休暇どころか深夜残業や休日出勤もたくさんこなすし仕事を任せればミスもない。
これは会社にとって、日本社会にとってまさに理想的な人材であったと言えるだろう。

ところが、そんなSに上司は嫉妬した。
大学に行き、ミスも事故もなく順調に出世街道を歩んでいるSに挫折を体験させてやろうと上司は毎日のようにパワハラを繰り返した。

「いくら頭が良いっていったって周りの気持ちが分からなきゃ意味ないんだよね」
「お前さー、態度悪いよね。プライド高いよね」
「俺が若かった頃はもっと働いたんだぞ!」からの「俺と話すなら酒や車には詳しくなっとけよ!」などなど……

しかし、それでもSは耐えた。
おまけに嫌がらせをしても嫌がらせをしても能率が落ちないという怪物っぷり。
それもそのはず。
彼にとってはこんなものは小鳥のさえずりに等しい。
なぜなら彼にとって自宅は会社が遊び場に見えるくらいの地獄で、ママは上司を100人束ねても勝てないほどの鬼だったからだ。

とはいえ、Sの内面は着実に変わっていた。
Sは表面上はにこやかにしつつも、腹の中では怒りを感じていた。
それは上司の嫌がらせに対してではない。

それは上司を含め周りの社会人に対する、あまりに手ぬるい働き方に対してのものだった。
言うまでもなく上司は若手にいらない嫌がらせをする暇があるならもっと一生懸命働くべきだし、有給休暇や定時退社を理想とする同期はその辺りの話が遵守されているドイツにでも行けばいい。
日本はこれから少子高齢化で苦しくなってくるんだから、現役世代がもっともっと働かなきゃいけない……。

そうしてSが自分を律し、滅私奉公した結果、会社はそれに異例の昇進と昇給をもって報いた。
そして数十人の部下を持つようになったSは、いつしかこう呼ばれるようになった。
「新人潰しのS」と。

もちろん、彼には悪意はない。
むしろ会社のために、会社のためにと毎日あくせく働いている。
それに今はコンプライアンス(法令順守)の厳しい時代だ。
パワハラやセクハラなんてもってのほか。
そう、彼は効率良く正しいことしかしない。

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コメント(1)
  • 最後の一文、熱いね。

    2022/10/17/18:40

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