飾り棚の薄皮のマスク
投稿者:ねこじろう (147)
それはボクが小学校低学年の頃、学校の帰りによく立ち寄っていた児童公園でのことだった。
夏も終わりに近付いてきた頃のことだったと思う。
ぼちぼち太陽は西の彼方の山に近付いてきていて、公園の遊具も朱色に染まり、その影も一段と長く伸びていた。
昼間とは明らかに異なる冷たい風が時折通り過ぎていく。
すると今まで鳴りを潜めていた幾つかの街灯たちが、一斉に灯りを灯し始める。
一緒に遊んでいた同じ学校の友だち劉生くんに「そろそろ帰ろうか?」と声を掛けたその時だった。
トン、、、トン、、、トン、、、トン、、
小刻みに聞こえてくる耳障りの良い太鼓の音。
何だろう?と辺りを見回すと、それは公園奥で柔らかい灯りを点している街灯の下辺り。
いつの間にか1人のおじちゃんが立っている。
背後には軽トラが一台停まっていて、その荷台には祭りの出店によくあるような立派な飾り棚が置かれていた。
そこにはいろいろカラフルなお面が整然と並んでいる。
おじちゃんは片手に持った小さな太鼓を叩きながら、
「さあさあ、坊っちゃんも嬢ちゃんも寄っといで寄っといで、これから楽しい楽しい紙芝居が始まるよお」
と明るい声で陽気に呼び掛けている。
既に数人の男の子や女の子が近くでたむろしていた。
ボクも物珍しさから劉生くんと一緒に行ってみた。
おじちゃんの頭髪は長くて肩まであり、お医者さんのように白衣を着ていた。
顔には何故か母さんが寝る前にするフェイスパックのようなピッタリとした白いマスクを付けているからその表情は外からはうかがい知れない。
何であんなマスクをしているんだろう?
顔に見られたくないような傷とかがあるのだろうか?
そんな風に思いながら見ていると、おじちゃんは地面に立てたイーゼルに紙芝居のセットをテキパキ設置しだす。
荷台に置かれた飾り棚。
その端に飾られた安っぽい風車が、風のせいで寂しげにカタカタと回っている。
改めてそこを見ると、昔の特撮ヒーローやアニメの主人公のお面が並んでいて楽しいのだが、その中に明らかに異質な肌色っぽい色のお面がポツンポツンと幾つかあった。ただそれはお面というより、おじちゃんがしているのと同じような薄い穴空きマスクで、時折風でヒラヒラとはためていているのだけど、よく見ると汚れていてあちこち穴が空いていて、とても売り物にはならない代物のように見えた。
準備の終わったおじちゃんは早速
「さあ今からみんな知ってる正義の味方のカッコいいお話をするんだけど、その前に甘~くて美味しい飴を食べたい人手を上げて~」と言うと、子供たちは一斉に「は~い」と元気よく手を上げた。するとおじちゃんは車の助手席から棒飴の山盛り入った籠を出してくると「さあさあ、お食べお食べ1個30円だよ」と言いながら並んでいる子供たちに1つずつ手渡していく。
みんな各々受け取ると、ポケットから硬貨を3枚出して、おじちゃんに手渡していた。
ボクも劉生くんも受け取り手渡す。
みんな最初のうちは棒飴を舐めてワクワクしながら、おじちゃんの紙芝居を見ていたのだが、紙芝居は正直詰まらなかった。
というのはおじちゃんの話し方は単調で抑揚がなかったし途中何度も噛むし、そもそも話の内容自体もありきたりのヒーローものでつまらないものだったからだ。
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