確かに存在したSくんの話
投稿者:ねこじろう (147)
あれは小学校低学年の時かな。
Sくんとは
学校帰りにたまに寄り道していた廃屋で知り合ってから仲良くなって、よく一緒に遊んでいた。
いつも白いTシャツに黒い半ズボン姿で、蝋人形みたいに透き通るような白い肌の子だったな。
自宅が同じ公営団地の4号棟の3階ということが分かってからは、学校が終わると、よくお互いの家を往き来しゲームとかをして遊んでいたっけ。
俺は3号棟の3階だったからね。
放課後になると俺は例の廃屋に立ち寄り、しばらくSくんと遊んでから猛ダッシュで団地まで走り、敷地内の一番奥に建つ4号棟のコンクリートの階段を一気にかけ上がったな。
そしたらSくんは「ただいま」と言いながら赤茶けた金属のドアを開けるんだ。
玄関の先は廊下が真っ直ぐ伸びていて、奥には8帖ほどの和室、その隣にはリビングがある。
あと廊下沿いにも2部屋あった。
俺の家もSくんのところも間取りは全く同じだったんだ。
Sくんはもどかしげに薄汚れたスニーカーを脱ぎ廊下沿いにある自室のドアを開けると、さっさと中に入っていく。
俺も「お邪魔します」と一言言って後に従う。
その時大概、廊下奥にある部屋の扉は開いていた。
そこは畳の部屋なんだけど、カーテンを閉めきっているのか、かなり暗いんだ。ただ奥の方にある豪華な仏壇のところだけが蝋燭を灯しているのか、ボンヤリ灯りを放っていて、その前に女の人が背中を向けて正座しているんだ。
女の人は日本髪を結い、小豆色をしたちりめん柄の着物を着ていて、背筋を伸ばしただ仏壇に向かって手を合わせていた。
こんな情景は一般的な家庭のヒトコマで、特に珍しいことはないだろう。
だがSくんとの仲が深まり、家を訪れる回数が増えていくに連れ、俺は少しずつ奇妙な違和感を感じ出す。
学校が終わる時間は日によってまちまちだから、Sくんの家に遊びに行く時間も、もちろんまちまちだ
そして訪れる曜日も二人の気分次第だ。
でも、何時も同じなのだ。
ただいまと言って廊下にあがり、さっさと部屋に入るSくんの背中。
その時必ず奥の部屋の扉は開いていて
真っ暗な畳部屋の奥にボンヤリ見える豪華な仏壇。
その前に正座している着物姿の女の人。
あ、それと部屋に入ってからのSくんなんだけど、俺がコミックとかゲームとかしている間、ベッドの端に座って、ただじっとボンヤリこっちを見てるだけなんだ。
空虚なビー玉のような瞳で、、、
ある時、俺はSくんに聞いたことがある。
「ねぇ奥の部屋にいる人、誰なの?」
彼は聞こえているのかいないのか、いつもの瞳でただじっとこちらを見ているだけで答えることはなかった。
それから何度となく同じことを尋ねたのだが、結局最後までSくんがこの問いに答えたことはなかった。
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