異常者の見る悪夢
投稿者:ねこじろう (149)
ぼろぼろの麻のずだ袋から頭と腕を出し、私は舗装されていない道を裸足で歩いていた。
海に近いのだろうか、ときおり生暖かい潮風が左の頬をくすぐる。
見上げると、青白い太陽がギラギラと雲の合間から気だるい光を放っている。
彼方を見渡すと空一面、セピア色の雲が際限無く広がっていた。
カラフルなサリーを羽織った整った顔のイスラムの女たち。
肌の黒い屈強そうなランニング姿の男。
白いアゴヒゲを地面まで伸ばしたベレー帽の老人は、聖書を大事そうに胸にあてて歩いている。
あばら骨の浮いている痩せた子供たちが奇声を上げながら、駆け抜けていった、、、
─ここはどこかの市場なのだろうか?
右側には薄汚れた麻のテントがズラリと並んでいて、浅黒い肌の者たちが忙しく動き回りながら、様々な物品や野菜、果物を売っているようだ。
しばらく歩くと、チリリリン、チリリリンというけたたましい鈴の音が聞こえてきた。
見ると、前方にちょっとした人だかりが出来ている。
─何だろう?と、近づいて行くと、
薄汚れたテントの前に、たくさんの人が集まっていた。
後ろ側に回ってみると、前方を遮るたくさんの者たちの背中の向こう側から、意味不明の大声が聞こえてきた。
しばらくすると、何人かが勢いよく片手を挙げる。
どうやら何かの競りをしているようだ。
私は視界を遮る大きな背中、小さな背中をかき分けながら、懸命に前へ前へと進む。
そしてようやく視界が開けた瞬間正面に見えたのは、腰高の木製のカウンターと、その奥には背丈くらいの棚。
棚は3段ほどあり、その全てに炊飯器くらいの大きさの透明のガラス容器がズラリと並べられている。
カウンターの傍らには黒い三角頭巾を被ったマッチョな大男が立っていた。
男は国籍不明の言葉で何か立て続けにしゃべると、最前列に立つ黒いサリーの女を指差した。
女はとても喜び、巾着から何枚かの金貨を出して、男の差し出す毛むくじゃらの手に握らせる。
男は棚からガラス容器を一つ取り、女に手渡した。
女は容器を大事に胸に抱き、その場を立ち去った。
─ガラスの容器の中には何が入っているのだろうか?
大男の背後にある棚に、私は目を凝らした。
それは、、、
人の生首だった。
全てホルマリン浸けにされており、まるで生きているかのように生々しい。
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