大輔と花子
投稿者:ねこじろう (154)
【チンパンジー】
chimpanzee. 霊長類の一種。 チンパンジー属。 ヒト属,ゴリラ属,オランウータン属とともにヒト科の4属を構成し,現生の生物の中ではヒトから見て最も系統的に近い存在である。
コトバンクより
◆◆◆◆◆◆◆◆
今年40になる久米の悩みは2つあった。
1つは未だに独身だということ。
もう1つは大輔と花子のこと。
大輔と花子というのは、彼が勤めているF市立動物園で飼育されている番い(つがい)のチンパンジーのことだ。
彼はこの2頭の飼育担当なのだ。
番いということで園も一般の来園者の方々からも、赤ちゃんを期待されていた。だが園に連れてこられてもう10年経つのだが、未だに懐妊の兆しもなかった。
それはとある初秋の月曜日のこと
久米は朝から園長室奥のソファーに座っていた。
アフロヘアーに愛嬌のある丸顔。
縁なしの丸メガネを掛けていて、
上下サファリ調の制服に身を包み黒い長靴を履いている。
テーブルを挟んで正面には、熊谷園長が座っている。
動物園に赴任してからまだ1年も満たない新人園長だ。
噂では、大阪の役所で会計の仕事をしていたらしいのだが、金絡みのトラブルを起こし役所から追及され、どういう経緯でか、今年から九州北部にある、ここF市立動物園の園長として赴任してきたようだ。
今年還暦になる白いワイシャツに黒ズボン姿の園長が、渋い顔をしてタバコを灰皿で揉み消しながら口を開いた。
「久米くん、今日きみをここに呼んだのは他でもない。例の大輔と花子の件なんだ。
まあきみも忙しいことだろうから単刀直入に聞くが、何で未だに赤ちゃんが出来ないんだ?
園としても、まだかまだかと期待をしているのだが」
久米は俯いたまましばらくじっとしていたが、やがて喋り始めた。
「正直、自分にもよく分かりません。
自分があの子たちの担当になって今年でちょうど10年になります。その間自分なりに必死に飼育してきたつもりです」
「それならどうして出来ない?」
「…………」
花子は元気になったかな?