捨てられたドール人形
投稿者:寇 (4)
慌ててAが足を挟み込み、俺はBを引っ張り出した。
「ちょっと待てって」
この機を逃したらBが完全に引きこもってしまう。
そう思ったのか、気が付けば俺とAはBを無理矢理玄関口から引きずり出していた。
しかし、改めて日の光の下でBを見れば、頭髪は脂汗でべたついていて、服装もヨレヨレ。
剰え謎の体臭で鼻がひん曲がりそうだった。
「お前、風呂入ったのいつだよ」
鼻を摘まみながらAが問いかけるが、Bは「忘れた」と他人事の様に呆けていた。
改めて見れば本当にBは浮浪者の様に薄汚れている。
そしてこの激臭。
恐らく、B本体もそうだが、この臭いは部屋の奥からも漂っている。
俺はふと半開きのドアから室内を覗いてみた。
よくある1kの間取りで、玄関から居間までの間にキッチン兼用の廊下があるタイプ。
ちょうど居間と廊下を隔てるスライド式のドアが全開だったので居間の様子が丸見えだった。
ただ、カーテンを閉め切った居間は脱ぎ捨てた衣服やコンビニ弁当の空なんかを押し詰めたゴミ袋で埋め尽くされた酷い有様で、引きっぱなしの布団の端がちらりと見切れている。
そんな布団の上には何処かで見覚えのあるブロンドの頭髪が広がっていた。
途端、俺はBが廃ビルでドール人形を拾った事を思い出す。
「そういえばB、肝試し行った時に人形拾ったろ?あれ売れたの?」
俺が突然関係ない話題をした為かAは「こいつ何言ってんだ」的な顔を向けてきたが、反面、Bは沈んでいた表情を一気に輝かせる。
「何いってんだ、ちゃんと大事に持ってるって!すげえ綺麗になったんだぜ」
まるでオタク趣味のある奴の領域に踏み込んだ時の様に、Bは楽し気に早口になった。
ちょっと不気味だったが、漸くBと意思疎通ができた様な安心感から、俺は会話を続ける。
「へえ、ちょっと見せてもらってもいい?」
Aは何度か俺とBの顔を見比べて何かを言いたげだったが、Bは「いいけど惚れんなよ」と意味わからない事を零し、半開きの玄関ドアを全開にして俺達を招き入れてくれた。
さっそく中に入ろうとした俺の肩をAが掴み、「中やべえ、ゴミ屋敷じゃん。マジ入んの?」と小声で話しかけくるので、俺は「とりあえず家に上がって説得するしかないじゃん」と言えば、俺がBを説得する目的で人形の話を持ち出し家に上がりこむ算段だったと気付いて貰えたのか、Aは「ああ、そういう」と納得した面持ちで靴を脱いでいた。
廊下にさえ空き瓶や缶が散乱していたので、正直家に上がったのは失敗だったかもしれないと早くに後悔しかけたが、本命である居間に上がるとまさに足の踏み場が無いの一言だった。
ただ、万年床の上には裸に剥かれたドール人形が仰向けに転がっていて、その周りには丸まったティッシュが意味深に転がっていたので、俺とAは予想だにしなかった光景を前に唖然と口を開いたまま佇む事になる。
(え?こいつ人形とヤってんの?)
たぶん、この時の俺とAは同じ感想を抱いていたと思う。
Bは部屋に戻るなり人形を拾い上げ……と言うよりかは優しく抱き抱える様にして「ああ、ごめんごめん、服着なきゃね」と笑顔を覗かせていた。
俺達が異様なものを見る視線を向ける中、Bは人形に服を着せ始めると、俺は人形の瞳が揺れ動くような錯覚を覚えた。
思わず目を擦った後にもう一度確かめてみれば特に変わった様子は無い。
面白くて結末までドキドキしながら読んだ
人形に魅入られるのって怖い
良ホラーでした!
実写とかで観たくなる話
人形こわい
面白かった!
次回作も期待してます!!
正直、怖くはありませんが好きです。
小学生の時に見た「私が拾った人形を捨てようとする兄が夢の中で人形に惨殺されて、起きたら兄が殺されていて近くに人形が落ちていた…」って話以降、「生き人形」の話を含め人形話好きです。