捨てられたドール人形
投稿者:寇 (4)
「B?人形と何……」
暫く放心状態でいると、緊張で正常な判断が出来なくなったのかAが口を開く。
そのAが全てを言い終える前に、俺は慌ててAの横腹を小突くと、Aはハッとした表情で口を紡ぎ、沈黙を隔てて人形の頭を撫でるBを見据えた。
「え?何か言った?」
「いや、その、思った以上に大事にしてるなって……」
Bの機嫌を損なわない様に言葉を選んで受け答えする俺。
Bは「そりゃあな」と得意げに笑っていたが、やはりその目に生気は無い様に見えた。
「じゃ、じゃあ、俺ら帰るわ!Bが元気なのも分かったし」
「あ?そうか?」
そして、俺は今のBには何を言っても通じないと判断して、逃げる様にAと一緒に部屋を飛び出した。
その帰り、俺とAは見てはいけないものを見た様な気持ちでいっぱいになり、何をするにもBと人形の事が頭に浮かんで嫌悪感に苛まれる。
幸いにもこれから夏休みに突入するので、一先ずBの出席日数の心配はしなくもよい。
ただ、Bの健康状態も気掛かりなのは確かなので、こまめに連絡と差し入れぐらいはしようとAと取り決めた。
しかし、俺達の心配を余所にBの異常性は増すばかりだった。
たまに電話に出たかと思えば明らかに行為の最中の様な息遣いで「はぁ、何?はぁ」と途切れ途切れになる。
栄養価の高そうな果物とかゼリー何かを差し入れに持って行った時は、夏休み前に増してガリガリに痩せ細ったBを見て、流石に病院へ連れて行こうと思ったがBがひどく暴れて抵抗したので諦めた。
そんな中で俺達はBの実家の電話番号をBのスマホから盗み見る事に成功し、ダメ元で電話をしてみる事にしたのだが、意外にもBの近況を一切合切話せばBの両親はすんなりと受けれてくれた。
その理由は、近頃電話を掛けてもBと全く連絡が取れなくなったからだそうで、俺達の話を聞いてBが前期の単位を全て落とした事を知った両親の怒り心頭といった怒気を孕んだ声はスマホ越しにも伝わってきた。
それから数日後、俺とAはカラオケ帰りにラーメン屋で夕飯を済ませていたのだが、俺のスマホにBの両親から連絡が入ったので一度出た後に折り返す旨を伝えて急いでラーメンを平らげて店を出ていく。
そして折り返しBの両親に電話を掛ければ、何とBが精神病院に入院する事が決まったと報告を受けた。
俺とAは「え?そんなに悪いんですか?」とかなり驚愕したものだが、Bの両親、主に父親からの報告だったが、ひどく憔悴しきった様な声色で『私にも手が付けられないほど錯乱しててね、一時的だけど、入院させる事に決めたよ』と話してくれた。
そこからは内容がアレなので搔い摘むが、何でも両親がBの部屋を訪ねるとBはあのドール人形に腰を打ち付けていたらしい。
その後も人形相手に性的な事を繰り返そうとするので父親が人形を取り上げれば、Bを育てて十八年間見せた事が無いような憎悪に満ちた表情を浮かべて父親に飛び掛かってきたそうだ。
そこからは喧嘩と言うより本気の殺し合いの様な阿鼻叫喚な取っ組み合いとなり、あまりの騒々しさに隣人が警察を呼び、その場でBは警官に取り押さえられた。
ただ、Bの異常性が顕著だった為か、Bに薬物使用の疑いがかけられるものの当然の様に陰性。
両親たっての願いで一度病院で精神鑑定と言うか、頭が正常かどうか検査する事となり、結果、精神病院に入院する事が決まったと語る。
そんな濃密な内容を淡々と話す父親は相当に疲弊しきっている事が伝わってくるが、時折、俺達がBに差し入れをしてくれたり学校の事で連絡を回してくれたのを知ったらしく、かいがいしく「ありがとうね」とお礼を言われたのを今でも覚えている。
そして電話を終える前に『Bが元に戻ったらまた仲良くしてあげてくれるかな。いや、難しいか』と半ば自棄になったように苦笑していたが、俺達は「寧ろ明日にでも面会に行きますけど」と言ってやると、父親は『ははは、残念だけど今はまだ面会できないよ。ありがとう』と笑ってくれた。
そして今度こそ父親が電話を切ろうと『それじゃあ』と区切りをつけた時、俺は勇気を振り絞って気掛かりだった事を訊ねてみた。
「あの、人形はどうしたんですか?」
面白くて結末までドキドキしながら読んだ
人形に魅入られるのって怖い
良ホラーでした!
実写とかで観たくなる話
人形こわい
面白かった!
次回作も期待してます!!
正直、怖くはありませんが好きです。
小学生の時に見た「私が拾った人形を捨てようとする兄が夢の中で人形に惨殺されて、起きたら兄が殺されていて近くに人形が落ちていた…」って話以降、「生き人形」の話を含め人形話好きです。