最後の仕事
投稿者:ぴ (414)
私の職場には、長年働く真面目な事務員さんがいました。
頼れる男とは言い難く、すごく地味で目立ちはしなかったけど、コツコツと自分の仕事をこなして、信頼がある人でした。
私が仕事に行き詰っているとさりげなくコーヒーを入れてくれたり、甘いものを差し入れてくれたり、とても優しいおじさんでした。
そんな人もそろそろ定年だねなんて話していて、いなくなると寂しくなるな~なんて思っていました。
まさか定年を迎える前にいなくなるなんて、想像していませんでしたけどね。
その人は突然事故で亡くなってしまったのです。
そろそろ定年を迎えて、みんなでお別れ会を開こうなんて話していたのに、そんなことがあるなんて信じられなかったです。
私はすごく寂しくて、夜家でその人を思って泣きました。
そんなある日、私が職場でいなくなった事務員さんの代わりに事務作業をこなしていたら、すごく眠くなったのです。
多分、前日も徹夜で残業をしていたのが響いたんだろうと思って、ちょっとだけ仮眠を取ろうと思いました。
意識が混濁していき、その合間になぜか亡くなった事務員さんの背中が見えました。
「最後の仕事だから」という優しい声が聞こえたような気がしました。
その背中がいつもよりもずっと頼もしく見えて、私はなぜか切ない気持ちになりました。
ハッと目を覚まして、私は真っ青になりました。
ちょっと仮眠のつもりが気づいたら時間が大幅に経過しており、明日必要な資料が間に合わないと真っ青になったからです。
けれど私はワードを見てびっくりしました。
確かに途中までしか終わっていなかったはずの資料が完璧に仕上がっていたからです。
とりあえず安堵して、その資料のコピーを取って、家に帰りました。
どう考えても作業は途中までの記憶しかなく、狐につままれたような気持ちになりました。
あの日夢幻かぼんやりした事務員さんの背中を見ました。
そして事務員さんは「最後の仕事だから」と言っていました。
もしかしたら真面目な事務員さんは、定年まで仕事をやり遂げられなかったことを悔やみ、まだ職場を彷徨っていたのかもしれません。
そしてあの日私に力を貸してくれたと信じています。
自身も無念の死だろうに、事務員さんの責任感と優しさに泣ける