峠のバス停留所にて
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
誰かとの待ち合わせなのか、それとも何かトラブルでもあって連れの車から降りたのか、単に最終バスに乗り遅れたのか…。
そもそもこんな所に停留所があるのも不自然だが、ここから見えないだけで集落があるのか…。
そんな事を考えながらバス停を通り過ぎたが、どうしても気になって仕方が無かったので、バックで停留所まで戻ることにした。
スマホをホルダーから外して画面をみると、そこは圏外だった。
そのせいで女性は連絡が取れないのかもしれない。
停留所の前で車を停め車を降りると、思い切って女性に声を掛けた。
「どうしましたか?大丈夫ですか?こんな夜中に危ないですから、よかったら車に乗りませんか?」
女性はうつむき加減で、その顔をはっきり見る事ができなかった。
「…実は…そこに…いるんです…。…が…。」
この声やしゃべり方は、どこかで聞いたような気がしたが、すぐにはわからなかった。
「…一緒に…行ってくれませんか…」
どうやら、女性は連れか仲間かが近くにいるのだが、なかなか戻ってこないから一緒に付いて来てほしいらしい。
女性はゆっくりと立ち上がって、道路を渡り停留所の向かい側の草むらへと入っていった。
そこには背の高さほどの草や植物が生い茂っていて、女性の姿が見えなくなりそうだから急いで後を付いて行った。
「…ここです…」
あまりの暗さに、私はとっさにスマホのライトを点けた。
私は女性の前に出て、草むらの奥へ2~3歩進むと、そこに女性がうつぶせで倒れていた。
着ている服は汚れ、しかも少し破れていて、かなり出血している様子だった。
私はそれが遺体だと直感したと同時に腰が抜けて座り込んでしまった。
「うわあああ」
声にならない声を出し、座り込んだまま手を地面について後ろ向きに進んでなんとか道路に出た。
さっきの女性が気になって周りを見渡したが、その姿はどこにも無かった。
いつの間にか、停留所の白熱電球は消えていた。
停留所の女性と遺体の女性が同じ服を着ていた事は覚えている。
しかし、私がその後どうやって家に帰ったかは覚えていない。
遺体放置の方が怖いよ!
家に帰るまでの事を覚えていないとありますが、停留所の近辺は圏外だったので、帰る途中か、帰ってから通報したんだと思います。きっとそうです。
作者より