消えた『たかしくん』
投稿者:煙巻 (8)
点呼を取った際にも、欠席者の名簿の中にもたかし君の名前は上がらなかった。
俺は不思議に思って隣のC子に「ねえ、たかし君来てる?」と問いかければ、C子は少し逡巡した後に「ごめん、誰だっけ?」と本当に覚えていない素振りで聞き返してくる。
ああ、たかし君C子に忘れられちゃってるよ(笑)なんて呑気に考えていた俺は、次に逆隣のAにたかし君の所在を訊ねてみた。
「は?誰それ」
Aの返答に俺は一瞬戸惑ったが、すぐに「いや、たかし君だよ」と食い下がる。
しかし、Aは「さあ……居たかなそんな奴」と呟いた後、隣のBや級友にたかし君について聞き始めた。
俺は、まさか皆たかし君を忘れちゃったのか?と不安に思いながら皆の返答を待ったが、虚しくも、全員がたかし君の存在を綺麗さっぱり忘れている事を告げられ、何処か衝撃のあまり物悲しくなった。
Fに今回の同窓会について訊ねてみれば、当時の連絡網を発掘して実家に連絡を取っただけだと話し、その用紙に「たかし」という名前の生徒は載っていないと逆に気味悪そうに怒鳴られた。
そのせいか、俺が居もしない生徒の名前を持ち出した事で、「何?誰のこと?」とか「こわー!やめてよ」と女子連中の非難の声が集中し、F君を始めとする男子からも「中学とか高校の奴と混同してないか?」と諫められる事になった。
そうして始まった飲み会だったが、俺はどうにもたかし君の事が頭から離れず、こんなにもはっきりと遊んだ記憶があるのにどうして皆忘れているんだと、意固地になって飲み続ける。
そんな俺を心配してC子やAとBが会話の合間合間に気を使って声を掛けてくれるが、正直おかしいのはお前らだと言いたかった俺は意固地になったまま枝豆でもしゃぶりながら「本当にいたんだよ…」「なんでも覚えてないんだよ…」と泣き上戸よろしくブツブツと文句を零した。
そんな折、C子が「何か私達が覚えてるエピソードとかないの?」と持ち出す。
そうだ。
覚えている限りでもたかし君は皆と接点を持っている人気者だった筈。
俺は三人に、当時のたかし君がドッジボールでバカやってた事やそれ以外の思いつくエピソードを弁論するように言い聞かせていくが、どれもしっくり来ないのか、三人は眉根を下げるばかりだった。
と言うより、俺の話すエピソードは覚えているが、そこに「たかし」という存在が居なかった様に三人の記憶が補完されているのだ。
ここまでくると、最早たかし君が存在すると主張する俺がおかしいのではと自分でも思いこまされてきたが、最後に夏祭りでの出来事を話すと、俺の声量が響いていたのか、遠くの席で呑んでいたFが反応したかと思えば、数名の男子が食い付いてきた。
「俺、夏祭りの事は覚えてる」
「俺も覚えてるわ」
「つーか、確かアレ、立ち入り禁止の立札あったよな?あそこ」
「そうそう」
「で、誰か入っていったよな(笑)」
と、何故か盛り上がっていた。
しかし、これは光明だ。
これを機会にたかし君の事を思い出すかもしれない。
俺はすかさず立入禁止先に侵入したのがたかし君であり、俺達が一時間待たされた挙句、戻って来たたかし君が何もないと告げた事を話した。
すると、全員は怪訝な面持ちになるが、展開としては全員が同じ認識を持っていた事から、何人かが「確かに誰か入っていったけど…」「それがたかし?」と互いの顔を見合わせて考え込んでいた。
ここまで思い出話を持ち出しても思い出せないのなら、最早彼等の記憶内にたかし君は存在しないのだろう。
俺はあからさまに残念がる様に肩を落とすが、そこからは気持ちを切り返して同窓会を楽しむ事にした。
その晩、二次会を終えて帰宅した俺は暫く実家のリビングに寝っ転がって何をするでもない、ただ空中をほんやりと見つめてボーっとしていた。
そんな俺を見兼ねたのか、母親が「あんた、どうしたの?戻るなりぼーっとして」と心配したのか顔色を窺ってくる。
苗字知らんのか?
↑そういう話じゃないと思うのだが・・・
前に怪談のイベントか何かで、「自分しか覚えてない小学校時代の同級生がいる体験談」が意外と多いと話題になってた
イマジナリーフレンドとはちょっと違う感じもあって面白い
どういうこと?
面白かったです
この話がわからない人がいるのがわからない
なんだよc子と結婚したかと思ったのに…