鈴木君の黒歴史
投稿者:with (43)
音楽室の奥には楽器を収納する部屋があり、何人かがカギのかかっていないその部屋へ入っていくのが見えた。
俺達も窓辺を調べた結果、特段人の影が反射して窓辺に写るような仕組みが見当たらなかった事から、たまたま守衛さんとか学校関係者が立ち入った際に目撃しただけか、若しくは本当に幽霊が潜んでいたのではと結論付ける。
まあ、幽霊の方が面白いので大歓迎だけど。
調査に飽きた俺は他の奴等同様に楽器室に興味があったので、そこに向かおうと歩を進めた。
その時だった。
「きゃあああああ」
と、女子の悲鳴が上がったかと思えば、先に楽器室に入った何人かが血相を変えて飛び出して来た。
「逃げろ逃げろ!」
「うわあああ!」
女子に続いてヤンキー気質の坂上や図体のでかい柔道部の山本なんかも半ばパニック状態という面持ちで音楽室でポカーンとして佇んでいる俺達にすぐ逃げる様に指示を飛ばす。
俺は咄嗟に何か危ないものでもあったのか?なんて呑気に考えていたが、最後の一人が飛び出した所で、俺も逃げ遅れないようにと踵を返して走り出す。
しかし、悲劇はそこで起きてしまった。
最後尾の女子が「待って!おいてかないで!」と必死に訴える声が聞こえたので、ちょうど前列に居た俺が速度を落として振り返った所、その女子が足がもつれたのか野球のランナ―がヘッドスライディングする様に俺へと飛び込んできた。
タックルに近い女子と衝突をふくらはぎに受けた俺は、そのままバランスを崩して咄嗟に手を伸ばすが、無念にもそのまま大胆に転げる事となった。
ズサーーッと転げる俺と女子。
だけど、もう一つ転げる影が見えた。
「いてて…」と上体を起こして横を見れば、この世の不幸を集束した様な現場がそこには広がっていた。
俺が転げた場所の少し前方にお尻を丸出しにした男子が倒れている。
その男子は「いってー!」と悪態づきながら勢いよく立ち上がるが、その下半身は素っ裸だと気づいていないのか、足首まで降ろされたズボンとパンツが足をもつらせた為、再び緩やかに膝をつく。
そして、俺の後ろにいた女子もそれに気づいたのか、はたまた前を見たら偶々ケツを丸出しにして跪く男子の姿を目にしたせいか、「きゃああああ」と別の意味での悲鳴を上げてしまい、転げた俺達を置き去りにした先頭集団にその声が届いてしまった。
続けて「なんでケツ出してんの!」という女子の声を聞きつけた先頭集団は、よほどその台詞に引っ掛かったのか、立ち止まって振り返るなり懐中電灯を俺達が居る方向へと照らす。
更に不運だったのが、未だ何が自分の身に起きているのか分かっていない男子がもう一度立ち上がったせいで、当然下半身丸出しの男子の正面側に居る先頭集団からは男子の陰部がライトに照らされて丸見えとなり、『ナニ』を目撃してしまった女子の悲鳴と男子の笑い声が一斉に廊下を埋め尽くす事となった。
その悲劇の男子の名前は鈴木君。
鈴木君は下半身の風通りのよさに気付いたのか、皆が指差して笑ったすぐ後に自分の股間を見て声にならない悲鳴を上げながらズボンを持ち上げた。
その後、俺達の笑い声が守衛に聞こえたのか、旧校舎を脱出した際に怪訝そうに巡回していた守衛に見つかってこっぴどく叱られた。
勿論、怒られている最中にも関わらず、含み笑いをしている奴のせいで説教は延長される事となり、翌日には学校の教師達に知られ再び怒られ、家に帰れば両親からも叱られる事となった。
だけど、俺も含めて恐らく鈴木君以外はこの体験を一生の思い出として語り継ぐ事だろう。
後日聞いた話だが、鈴木君の『ナニ』は物凄く小さく毛布をかぶっていたそうだ。
その話が女子にも広がったせいで、暫く鈴木君は色んな人に揶揄われてしまったが、俺を始めとする男子達は時に鈴木君を宥め、時に鈴木君をいじって笑っていた。
そんな若かりし青春の思い出を最近思い出した。
何故かと言えば、実家の墓参りに帰省した時に級友の男子に遭遇してその話が上がったからだ。
ネタかと思ったら普通に怖くて草
いつも楽しみにしながら読ませてもらってます!有り難う!
なんかワロタけど怖い
霊は不浄なものを嫌うというが…
時間が経ってるとはいえ友達冷静だな