田所さま

だが、それより気になったのは、葬式に来ている人たちの様子だった

皆、とても明るかった
唯一の息子を失って悲しいはずのお母さんも明るい調子だった
どこか祭りのような雰囲気だった
母さんも父さんも似たようなかんじだった

そして、誰もが田所さんのことを田所さまと呼んでいた

意味が分からなかった
なんで死んだら、「さん」が「さま」に変わるのか

大人たちは例外なく、田所さま、田所さまと呼ぶ

まるで、事前に打ち合わせをしていたかのように

俺は何もかもが気持ち悪かった
ここは何かおかしい
はっきりと思った

次の年、村は大豊作となった
俺が住んでいた村だけじゃない
隣の村もその隣の村も
皆、裕福になった

みんな、それを最初から知っていたようだった

隣の家とか、村長さんのところとか、田所さんの葬式が終わるや否や、車とか家の建て替えとかやっていた

俺は中学を卒業すると、すぐに田舎から離れた
それから帰っていない

何が行われていたのか
俺にはわからない
わかりたくもない

もう関わりたくなかった

もう30年以上も前の話になる
でも、いまだに田所さんのあの声が頭に浮かんでくるんだ

「助けてください。ずっと見られている。逃がしてください」