八王子にある恐いトンネル
投稿者:一郎 (2)
しばらく走って多摩川に出ると、こんどは河川敷に沿って多摩川を上り、秋川との合流地点までやってきた。
すると、川沿いの道路に消防車が2台停まっている。河原には数人の消防隊員もいる。そこそこの人だかりも出来ていた。
私がその人だかりのそばを横切ろうとしていると、消防隊員数名がビニールシートで覆い隠すようにして、何かを運んでいる様子が視界の中に入ってきた。
野次馬の一人に『なにがあったんですか?』と聞くと、その状況を教えてくれた。
『川遊びをしていた子どもが流され、それを助けようとした父親も流されてしまい。いま上がってきたのが、どうも父親らしい』と言うのである。子どもの方はまだ見付かっていない。
さすがにこの時点では『何かおかしい』と、私は感じ始めていた。朝食の時の鼻血といい、テントウムシの大群といい、車に当たりそうになったことといい、それに加えてこれだ! 何かいやーな胸騒ぎを感じた。しかし、家からはもうかなりの距離を走ってきた。いまさら引き返す手はない。気を取り直して目的地の武蔵五日市を目指した。
武蔵五日市駅に着いたのは昼過ぎだった。途中のコンビニで買ったおにぎりと缶コーヒーを、駅前のロータリーのベンチに座って食べた。そのころには、朝からこれまでに起こった幾つかのおかしな事件のことは、あまり気にならなくなっていた。
昼飯を食べ終わると岐路に着いた。途中、例の旧小峰トンネルを通る。武蔵五日市駅からは32号線を南下し、新小峰トンネルの手前で、旧小峰トンネルに繋がる旧道に入った。
この旧道は、新小峰トンネルを抜けたちょっと先で、再び32号線と再び合流している。旧道とはいっても、昔はそれなりに車両が通っていたのだろう。荒れてはいたがアスファルトで舗装された道が続く。
旧道を暫く行くと、私と同じく、自転車に乗った中年の男性に追いついた。寂れた旧道なので、私たち以外に人はいない。聞くと、やはり『旧小峰トンネルを見にきた』と答えが返ってきた。八王子の心霊スポットや廃墟の話をしながら進んでいると、遂に目的の旧小峰トンネルが見えてきた。
それほど大きなトンネルではなかった。しかし、それを見た瞬間、なぜか鳥肌がたった。なんとも言えない嫌な感じがした。なんでそう思ったのかは分からないが、このトンネルはやめた方がいい、そう直感した。
私は、ためらうことなく引き返すことにした。彼にそれを告げると、軽く笑いながら『僕はこのまま行くよ』と言って、彼はトンネルの中へと無造作に入っていった。
私は来た道を引き返して32号線に戻ると、そのまま新小峰トンネルに入った。
新小峰トンネルを抜けると下りになる。軽快に風を切って自転車を走らせていると、前方の路肩にパトカーが1台停まっていた。警官が二人見える。
パトカーの横を通り過ぎる瞬間、人が倒れているのが見えた。頭から血を流していて顔が真っ赤だった。動かない。
すると、その直ぐそばには、旧小峰トンネルの入り口で分かれた彼の自転車が酷く拉げて転がっていた。
その脇を通り過ぎながら、私は、今日ここには来なければよかったと、心の底から後悔した。あれ以来、私はあそこには一度も行っていない。
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