口が裂けても言わない
投稿者:ぴ (414)
私の地元には怖くて悲しい伝承があります。昔々八兵衛という有名な嘘つき小僧がいました。
昔から大小さまざまな嘘をつき、村の人を困らせていたそうです。
次第に八兵衛は周りの人に信用されなくなり、孤独を抱えるようになりました。
ただ一人八兵衛の味方になってくれたのは、近所に住む「おしち」と呼ばれる少女だったらしいです。
気立てがよく明るいおしちは八兵衛の唯一の味方です。しかし八兵衛はそんなおしちにまで嘘を付きました。
それは自分が患っていて、もうこの先が長くないという嘘でした。
それは八兵衛にとって小さな嘘でしたが、おしちにとって大きな嘘でした。
その病を治すためにある薬の材料が山の奥にあると八兵衛は嘘をつきました。八兵衛はきっと寂しかったのでしょう。おしちの気を引くための嘘でもありました。
けれどそれを信じてしまったおしちは一人で山の奥に入り、その途中、運悪く獣に襲われて山の中で命を落としました。
おしちはずっと八兵衛に恋こがれており、八兵衛のために薬の材料を探そうとしたようでした。
優しいおしちは村の人にも親切で、丁寧に丁寧に葬ってもらいました。
その日から八兵衛はしゃべらなくなりました。村の人が何を言っても口を開かず、何も言わなくなりました。
ある日八兵衛は無実の罪で、捕まりました。その罪は間違いなく無実でしたが、八兵衛は言い訳もせずに何も語りませんでした。
酷い拷問を受けても何も言いませんでした。拷問によって物理的に口が裂けても何も言わない八兵衛は結局無実の罪で命を落とすことになったのです。
八兵衛はずっと自分のついた嘘でおしちを死なせたことを後悔していました。そして、最後まで口を開くことはなかったのです。
嘘か本当か八兵衛が無実の罪で殺されたその時期になると、口が裂けた男が噓つきの枕元に現れるという噂が立ちました。
それは今も引き継がれており、「嘘をついたら八兵衛が来るよ」と脅かされて、私は何よりも嘘が怖いと思っています。
うっかり…