ある山道脇の塚
投稿者:赤壁二世 (13)
「B子!B子!」
俺は街の入口が見えた事から歓喜のあまり彼女の名前を呼び続けた。
B子の反応が無いので、俺はハンドルから片手を離してB子の肩を揺する。
「B子!街だって、ほら。下山できたよ」
あの白い人影、もとい、おっさんが何だったのかは分からないが、俺達は無事に街に戻る事ができた。
B子の肩を揺すり続けていると、漸くB子がむくりと上体を動かして反応を示す。
「ほらB子、街だよ。御飯寄ってく?あ、俺ちょっとコンビニ行きたいかも……」
不思議と次々と言葉が早口で漏れ出て来るが、恐らく俺もかなり緊張していたのだろう。
恐怖心から解放された途端、バカみたいに饒舌になったものだ。
「なあ、B子……?」
そして、俺はB子に振り向くと、そこには白いワンピースを着た両目の無いおっさんが座って俺を見ていた。
そこからの記憶は無い。
次に俺が意識を取り戻した時、そこは車中で、外は明るかった。
俺はハッと起き上がって助手席を恐る恐る確認したが、そこにはB子がすやすやと眠っているだけだった。
そして、周囲を見渡せば、どうやら俺達は山道のど真ん中で車中泊していたらしい。
暫く呆然自失と空を眺めていれば、後ろから「プップー」とクラクションの音が聞こえた。
振り返ればダンプカーが詰め寄っていて、俺は咄嗟にエンジンをかけて車を脇に逸らし、ダンプカーが追い越していくのを見送った。
クラクションの音と車を動かした振動でB子が起きると、「あれ?」と周囲を見渡す。
「…おはよう」
「……あ!あれは?白いの!」
何となく白いおっさんの事がフラッシュバックしてB子を真っ直ぐ見れずに目を逸らしてしまったが、B子の言葉を聞いてアレが夢でない事を理解した。
そして、俺は今しがた目を覚ましていた事、今いる山道で二人して寝ていた事を話した。
「じゃあ、あの祠みたいな場所は?」
B子が言うのは、あの夜何度も通り過ぎた卒塔婆の建てられた塚の事だろう。
俺は何気なしにカーナビを起動させると現在地を表示させた。
すると今度は至って普通に地図が表示され、今いる山道のルートが映し出される。
そして、当然の様にそのルートは一本道だった。
俺とB子はそのルートをまじまじと見つめたまま押し黙る。
だって昨晩は二又に別れていて、片方には塚があったんだ。
疑ってかかるのは当然だろう。
おっさんは恋のキューピッドの逆バージョンの存在かもしれないですね