ある山道脇の塚
投稿者:赤壁二世 (13)
俺の出来る事はアクセルを踏む事だけだった。
幸い山道は真っ直ぐな道が続いている。
俺は速度を上げてあの人影から距離を取る事にしたのだが、
「ねえ、全然引き離せてないって」
と、B子が俺の肩を叩いてきたので俺もサイドミラーを覗いて見れば、全く持って車間距離が離れていない。
まるで牽引でもしているのかというほどぴったりと距離を保っている。
ああ、これマジでやばいな……なんて達観した様に考えるが、その考えもすぐに振り払われる。
「…嘘」
B子の感想は尤もだった。
俺達は四度目の塚を今横切ったのだ。
脇道など無かった。
曲がり角も無かった。
だと言うのに、俺達は同じ場所を四度通過している。
「……同じ場所だよな」
俺は静かに呟いたが、B子の返事は無かった。
助手席を見やるとB子は相変わらず後ろを見ている。
「B子?」
微動だにしない彼女を見て不安に思った俺は彼女の名前を呼ぶが反応はない。
B子は後ろを見ている。
ならば……と思い俺も少し停車寸前まで速度を落とし意を決して上半身を捻り後部へと振り返って確かめる事にした。
そして俺は見てしまった。
リアガラスに張り付いた白いワンピースを着た禿げたおじさんの姿を。
ただの禿げではない。
暗闇の中でも鮮明に見える真っ白な顔には、両目が無く血が流れていた。
そして、蜂にでも刺された様な分厚い唇をパクパクと動かして何かを訴えかけている。
それを目撃した俺はあまりの情報量の多さに、「うわああっ、わああ、ええええ」と叫ぶか困惑するかよくわからない悲鳴を上げ、すぐに車を加速させた。
それからは後ろを確認する事もせずに一心にこのループから抜け出す事だけを考えて車を走らせた。
途中何度か横の窓越しに白い物体が視界に入り込んだ気がしたが、俺は決して振り向く事はしなかった。
そして、どれだけ車を走らせたのだろう。
気が付くとあの何も無い山道から抜け出していて、疎らに設置された外灯が目に飛び込んできた。
おっさんは恋のキューピッドの逆バージョンの存在かもしれないですね