ある山道脇の塚
投稿者:赤壁二世 (13)
そして案の定、返事が来る事が無かったので、俺はあの人影を無視して車を発進させる。
「まあ、悪戯の類かもしれないし、マジで危ない人だとシャレにならないから…。心配なら交番にでも伝えておく?」
「うーん、そうだね。念の為にお巡りさんに伝えとこっか」
俺なんかより格段に正義感の強いB子だが、オカルトの類は人並み以上に弱い。
その為、今回は念のために交番に伝える事で妥協し、この場を離れる事に同意してくれた。
しかし、そんな人影への気遣いも虚しく、俺達はあの塚へと再び戻って来た。
「……マジで同じところぐるぐるしてんのかな、この道」
「それでもおかしくない?カーブなんて無かったよ?」
見慣れた卒塔婆に崩れた祠。
俺達は三度目のこの景色に嫌気がさしていたが、それと同時に言い知れぬ恐怖心を覚えていた。
「お、俺が右側見とくから、B子は左を見てくれる?もしかしたら道を見落としてたかもしれないから」
「わ、わかった」
そして、俺達は互いに脇道の見落としが無い様に前方を凝視しながら再び車を走らせる。
そもそも脇道があったとしても、こんなほぼ直進の道路を何周もする事は無い様に思えるが、見落としくらい誰にでもあるし、ましてやこんな暗闇では同化していても不思議ではない。
俺はいい加減この言い知れぬ恐怖心から解放されたくて目の乾燥も忘れて前方を凝視していた。
「うわ」
すると、B子の上擦った短い悲鳴に俺も肩が跳ねた。
「どした?あった?」
「あれあれ!あれ見て!」
B子は何やらシートをよじるようにして後ろを指さしていたので、俺もサイドミラーから後ろを見る。
車の遥か後ろだが、闇夜に浮かぶようにしてあの白い人影がそこには居た。
思わず喉が干上がる。
車間距離は一度目よりも縮まっており、より人影のシルエットが鮮明になっていた。
白の基調は衣服だと分かった。
中肉中背、まさしく人である事が認識できるが、その特徴を肉眼で捉えるにはこの車間距離は離れすぎている。
「やばくないアレ!人間じゃないって絶対」
B子が顔面蒼白で俺に訴えかけてくるが、俺は住職でもゴーストバスターズでもない。
ただの飲食店勤務の若造だ。
クレーム対応くらいしか修羅場を経験した事がない俺にあの得体の知れない相手が務まる筈はない。
「…ちょっと飛ばすよ」
おっさんは恋のキューピッドの逆バージョンの存在かもしれないですね