マネキン
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
これは友人Sが小学生の時の経験談だ。
Sの家の近くにはちょっとした大通りがある。
道沿いに本屋やコンビニ、小さな事務所などが並んでいる、ごくありふれた通りだ。
ある日、その通りにマネキン人形を取り扱う事務所が出来た。
なんでも、工場が遠くにあるということで、仕事の打ち合わせをするためのショールームを兼ねた事務所らしい。
その事務所は大きなガラス張りになっていて、その中にマネキンが展示されている。
マネキンには、頭が付いているタイプと、付いていないタイプがある。
事務所が出来た当初は、頭が付いているタイプが2体展示してあった。
Sが登下校する時には必ずその事務所の前を通る事になる。
ただ、その前を通るといつもマネキンが自分を見ているような気がして、何となく気味が悪い。
もちろん、そんなのはただの気のせいではあるが、他の子どもたちも同じような気持ちだったそうだ。
Sが感じていた不気味さを他の人も感じていたと知ると、少しだけ安心した。
事務所が出来て1ヶ月か2ヶ月位経った頃だった。
そんな話が事務所の人に届いたのか、苦情の電話でもあったのか、マネキンは頭の無いタイプに代わった。
ある日、Sが夕方になって本屋へ漫画を買いに行った時の事だ。
通りに出て事務所の前を通ると、まだ中には人がいて電気もついていた。
本屋で小1時間ほど過ごして帰ると辺りはすっかり暗くなっていた。
その時間にはもう事務所は閉まっていて、もう誰もいないらしく、中の電気は消えていた。
ガラスの内側のマネキンにスポットライトが当たっているだけだ。
Sがそのマネキンをふと見た時、妙な違和感を感じた。
本屋に行くときには無かったはずのマネキンの「頭」があったのだ。
Sは歩きながらその顔から目が離せなくなった。
よく見ると、歩いているSを追いかけるように目だけが動いていたのだ。
Sは怖くなって走ってその日は半分泣きながら家へ帰った。
翌日、Sがその事務所の前を通った時には、いつもの頭の無いマネキンが飾ってあった。
昨日の事は、暗くなっていたから見間違えただけだと自分に言い聞かせるしかなかった。
それから10数年たっているが、事務所には頭の無いはずの「マネキンの顔が怖い」という苦情が時々あるそうだ。
マネキン屋も商売しにくいな