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ヒトコワ

砂の唄さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

怨嗟
長編 2022/06/13 19:26 40,380view
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 私は住所を伝え、老人は数日以内に郵送すると約束をしてくれた。話がすんなりと進んだことに拍子抜けした思いと、他の村民に聞かれるとまずい出来事に自分が関わっていたと思うとそら恐ろしいという気持ちにもなった。いずれにしても私はあの老人からの手紙を待つしかなかった。

 数日後、本当にあの老人から封筒が届いた。中には2枚の簡素な便箋が入っているだけで他には何もない。以下に手紙の内容を掲載する。一部表現を変えているが内容に修正はない

 あの日あなたが撮影で訪れた家では不可解な不幸が起こっています。あの家に入った解体業者の一人が亡くなり、さらに若い作業員の一人が介護の必要な状態になってしまうという出来事がありました。私があの時声をかけたのはそのことを知っていたからです。
  
 そもそもあの家が誰の家かということをお話します。あれはKという私と幼馴染であった老人の家です。Kは私と同じ村の小・中学校に通っていましたが、勉強がよくできたので町の高校へ進みました。村にいたKの母親はKが都会の大学に進学して大企業に勤めたと自慢げに話していました。少ししてKの両親は他へ引っ越していったので、その後のことはわかりませんでしたが、この村には都会の大企業に勤めるほどの大した奴がいたと、Kはこの村の昔話のような存在になっていました。
 
 1年程前、私の商店に男が尋ねてきました。その男を一目見た私はすぐにKだとわかりました。Kは「久しぶりだな」と話し、今日は時間がないからと簡単に状況を話してくれました。「この村に戻ろうと思って、今村のはずれに小さな家を建てている。あと2か月で完成するから引っ越しがすんだらゆっくり話をしよう」そう告げるとKは帰っていき、2か月後にKは約束通り再び私のところを訪ねてきました。
 
 それから私とKは村内の他の旧友と共に酒を飲んだり、出かけたりと楽しい時間を過ごしていました。そしてあれからKがどう過ごしてきたかも知りました。
 Kは確かに大企業に就職し、商社マンとして世界中を駆け巡っていました。しかし、仕事が忙しくて結婚もできず、会社もバブル崩壊で死に体になったが、ある程度の地位にいたKは若い社員のために安い給料で身を粉にして働き続けたそうです。そして最近の健康診断で病気が見つかり、今のところ治療法はなく、寿命は数年と医者から告げられました。ならば会社を辞め、生まれ故郷に帰って余生を過ごそう。そう考えてKはなけなしの貯金とあってない退職金で家を建てて村へと帰ってきたのでした。

   
 ことの発端はKが村に戻ってきて2か月が過ぎた頃でした。夕方に突然、私の家へ村長が助役などの側近を連れてやってきました。村長が直々に家を訪ねるなど何か大変なことがあったのだと思い、私は家族と共に緊張して話を聞いていました。村長は直接的な表現を避け、回りくどい言い方をしましたが、その真意は「Kと付き合ってはいけない」ということでした。
 
 この現代において信じられないと思いますが、この小さな村では村長の存在は果てしなく大きいものです。私が商店を営業できているのも、それは村長が許可しているからという事実が純然と存在していて、他の業者や農家も同じです。私は理由を聞こうとしましたが、村長のやることに口をはさむということの意味を考えると首を縦に振る以外のことはできませんでした。
 次の日から村内でKを見かけることはなくなりました。この達しは村内に知れ渡ったはずでしょうし、K自身もそのことに気づいていたはずです。

 それから2週間が経って友人からKが死んでいたということを聞かされました。定期的に受診している町の病院から連絡がつかないと役場に連絡があり、職員が電話するが連絡が取れず自宅に訪問すると車はあるが反応はない。警察を連れて家に入ると、そこでKが死んでいるのが発見されました。いつ死んだのかどうして死んだかも伏せられ、親族のいないKは誰に見送られるでもなく人知れず火葬され、村はずれに無縁仏として葬られたのです。

 私は友人からなぜこんなことになったかも聞かされました。元凶は村長でした。今年は村長が初当選してから10年という節目の年で、村長はその記念碑として公園の整備計画を考えていて、村の古い公園に噴水やら休憩所やら豪華な設備を作ろうとしていたようです。しかし、いくら強大な力を持つ村長とはいえ厳しい村の財政から公園の整備に多くの予算を割くことはできません。
 そんな中で村長が目を付けたのがKでした。Kをよく知らない村民の中には、Kは都会から帰ってきた成功者で、故郷を捨てて荒稼ぎをした末に隠居しに戻ってきたと快く思っていない人もいました。村長もその一人だったのでしょう。
 
 Kは村長からの寄付の申し出を断りました。そもそも寄付するだけの金をKはもう持ってはいませんでした。役場に戻った村長はKを「勝手に戻ってきながら、田舎者に出す金はないと言い張る下劣で、恥知らずな守銭奴」と蔑み、憤慨したそうです。そして、その日のうちに村内を周って先の達しを行ったのでした。

 Kが死んだあとに、本当はいけないことですが医療費の精算などでKの本当の所得を知っていた村長の側近の一人が「あまりに忍びない」と話してくれたそうです。

 やりきれない思いは私も友人も一緒でした。しかし、この事実をどうすることもできず、この村で生きていく以上、過ぎたこととして口を閉ざすしかありませんでした。

 Kの死を聞いてから一週間もしない日、Kが住んでいた家の前に複数のトラックがやって来ました。通りかかった人が事情を聞くと「この家を取り壊す」と言ってきたのです。この家は最近建ったばかりだ、なぜ壊す?と聞くと「村長からの依頼だ」とこっそりと教えてくれたようです。
 
 そんなやり取りの折、Kの家の中から大きな声が聞こえました。ここから先は噂話ですが、中を調べていた40代の作業員が胸を押さえて急に苦しみだし、病院に運ばれた。原因は心筋梗塞ですぐに治療が行われ、一命をとりとめ状態も安定していたが、どういうわけかその日の深夜に死んでしまった。さらにその3日後、一緒に家の中を見ていた20代の作業員が深夜に脳出血で倒れた。命は助かったが体に麻痺が残り一人では生活できない状態になってしまった。若い人、ましてや20代の健康な人間が脳出血など聞いたことがないと病院の医師が驚いていたといいます。また、Kの家を訪問した役場の職員と警察官も実は骨折などの重い怪我をしていたようです。
  
 この家で何が起こったかを知っていた解体業者はこの作業員の一連の不幸を偶然ではないと判断し、解体の仕事を辞退しました。この出来事は村を越えて近隣市町村の業者にも伝わり、どこも解体を引き受けるところはありませんでした。

 しかし、村長は家の解体をあきらめず、最初の業者に「こちらの負担でお祓いをやるから」と、この辺では有名な神主を呼ぶことを提案しました。後日作業員と村長が立ち合い、お祓いが行われました。神主は車から降りてその家を見るなり「私には手に負えません」とすぐに帰ろうとしました。村長は神主を引き留めどうしてだ?と詰め寄りました。「この家にはとてつもない怨念が渦巻いている。それはこの家に入るものを見境なく攻撃するだろう。いわば呪いだ。この家に入ればまた命を落とす者も出るだろう。この家は誰も入れないように封印しなさい。そして呪いが薄まり消えていくまで触れないことだ」それを言い残し神主は早々に帰っていきました。この神主は広く名が知れた人物で、この発言が広まるといよいよ解体を請け負う業者はなくなりました。

 それでも村長の執着は消えませんでした。そしてある日、側近にこう話したのです。「あの家が呪われているなら、存分に呪わせてやればいい。そうすれば呪いは早く消えるだろう。呪いだって有限のはずだ。死んでまで人を不快にするあの忌々しい守銭奴の家を一日も早く消し去らなければいけない。これは私の責務だ」
 
 それから村長はPR動画作成という名目で予算をまわすよう命令しました。職員の一人が内容を質問すると恐ろしい剣幕で怒鳴られたそうです。それからご丁寧にも村の広報に●月●日と〇日、村内で撮影をするため邪魔をしないようにとお達しが掲載されました。その日にちはあなたが私の店に来た日にちと同じです。撮影の内容について村民には何も知らされていませんが、村長の側近はKの友人だった私たちにその動画の目的を話してくれました。

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コメント(1)
  • 素晴らしい

    2022/06/14/13:17

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