怨嗟
投稿者:砂の唄 (11)
さらにMは畑の脇の道を進んで、農作業をしている高齢の女性に声をかけた。「あぁ、あの家ね。確かに金持ちのじいさんが住んでいたよ。いつ死んだかは覚えてないね。そう、そのじいさんの財産が見つからないって村で噂になっていたよ。その財産を探しに息子たちが探しに入って、何人か死んじゃったっていうのも聞いたね。後のことは知らないけどね、村の人間はあんまり近づかないよ」
「どうやら金持ちのおじいさんとその親族が亡くなったというのは事実のようです。夜を待って突撃調査をしたいと思います。そして、おじいさんの財産は今も眠っているでしょうか?見つけたら私は車を買いたいと思います。少しぐらい視聴者さんに分けてあげてもいいですよ」
画面は夜になっていてMはあの一軒家の前に立っていた。私が車から見ていた光景と同じで、ここからは私も居たあの時の映像であることが分かった。「それでは調査を始めていきます」Mは家の中へ入り、家の中が映し出される。「意外ときれいですね。まずは居間から探しに…いや調査をしていきましょう」
家の中はMが言うようにホコリがたまった以外、破損や汚れがほとんどなく異様にきれいな状態だった。外壁の様子と重なるものがあったが、外の様子はあまり写っていなかったため私以外の視聴者にはあの異様さは伝わっていないはずである。
リビングと台所を探索していると何かが落ちるような物音がした。「あれ、今何か落ちた?」Mはそれ程気にしない様子で探索を続けていた。リビングを出ようとしたところで今度は人の呻き声のようなものが聞こえた。「今何か聞こえたよね?えっ?風の音?」そのあとリプレイと称して同じ映像が何回か流れた。
少し怯えたようなMは「奥に寝室があるようなのでそっちに行ってみましょう」と寝室に向かう。6畳くらいの和室に入り、残っていたタンスや押し入れの中を調べていると、今度は別の部屋からバタン、と何かを閉める音が聞こえた。「えっ?えっ?」と言いながらMは台所に戻り食器棚の前に立った。「これが閉まる音だよね?さっきの。でもこれ閉まってたよね?おかしくない?」
Mはとても怖がる様子を見せて「実は他にも部屋があって、客間?なんだけど…なんでもそこで親族の方が倒れたらしいです…」と奥へ進むのを躊躇した。それから、ゆっくりと廊下を進んでいたが廊下の奥の方から大きいガラスの割れる音がした。画面が大きく揺れ「だめ。もうだめ。調査中止。中止これ以上は無理」と走って逃げだす様子が映しだされた。再び家の前でMは息を切らしながらカメラを自分に向け「えー呪いは本当です。遺産とかもう知らない。ここには絶対入らない方がいいです。再調査もなし。とにかくこれで調査は終了です。みなさんさようなら」ここで動画は終わっていた。
視聴を終えた私は唖然とした。私が押したスイッチは動画内の4つの音の再生ボタンで間違いだろう。映像にタネがあって、それを演出として認識しているのなら、それは大した問題ではない。だが、私が裏側を知っていることを差し引いてもこの映像は露骨で、わざとらしく心霊映像としては質が低いと言わざるを得ないものだった。
そして、私が心配したのはこんな映像を作られた村長のことだった。あれだけ協力的な態度であった村長がこの映像を見たらなんと思うか、そればかりか自分の村が心霊スポットとして多くの人間に紹介されたのだ、まともな人間なら快く思うはずがない。村長は映像の内容を知らされていなかったのではないか?そうとしか思えなかった。
調べてみるとその映像会社は「突撃調査〇○」というシリーズで複数の動画を公開していた。いずれも怪しい店や胡散臭い商品の調査といったどちらかと言えばアングラな雰囲気の動画であり、その中にこの心霊と称する動画が1本ぽつんとあるのである。この動画以降2本の動画が投稿されていたが、どちらも心霊とは全く関連のない内容の動画であった。
私はMを軽蔑して、程度の低い映像制作会社の金儲けに手を貸したと今回の撮影を切り捨てるつもりだった。だが、その解釈では片づけられない、理解できないことを私は思い出した。
そう、あの商店で私に話しかけてきた老人のことである。老人の話す内容は不可解と言わざるを得ないが、態度自体は真面目で本心から出たであろう誠実なものであり、老人の言葉は嘘や脅かしではないだろう。
それに私は撮影の内容を一言も話していない。だが、老人は撮影の内容と日時を知っていたとしか思えない口ぶりだった。でなければ、前日心霊スポットと称される場所を撮影してきた私にあれほど的確で適切な言葉をかけられるはずがない。
老人の言葉が真実で私の身によくないこと、それこそ呪いが起こるのだとすれば、この映像は何なのだろう?本物の心霊スポットだったなら演出を加える必要はなんだ?そもそも最初から演出を加えるのなら適当な近場の廃墟で撮影すればいい、なぜあんなところまで行く必要があった?
私はMに聞いてみようと考えたが、最初から何も説明がされなかったのだから何かを聞ける可能性は低い。私が動画の裏側を知っているなら、なおさら話さないだろう。
最終的に私のとった手段はあの老人に直接聞いてみることだった。あの商店の名前は憶えているから電話番号も分かるだろう。電話で聞いて何も聞けないならそれまでだ。
さすがにその商店のホームページは存在しなかったが、過去に××村で発行された商品券のホームページに使用可能店舗の一覧があり、そこにあの商店も載っていて電話番号も一緒にあった。
「はい××商店です」電話越しのため確信は持てなかったが、あの時の老人だった。
「突然で申し訳ありません。私は以前●月×日にそちらで買い物をした映像会社の者です」
映像会社と喋ったところで老人は慌てたように口を開く
「あの時のお兄さんですか?あの、体は大丈夫ですか?何か悪いこととか…」
「特に不調はないのですが、そちらに伺いたいことがありまして」
「えぇ、なんでしょう」老人の声は少し震えていた。
「私はあの時の撮影について上からは何も聞かされていません。ですが、あの時あなたに言われたことはよく覚えています。ですが、その意図が今でも私にはよく理解できていません。それで、直接聞いてみようと思い、番号を調べて電話しました」
電話口の老人は少しの間黙っていたが、口を開いた。
「わかりました。すべては我々の村の問題ですから、関係のない人を巻き込むことは心苦しいと思っていました。最初からお話ししましょう。ただ…」
「ただ?」
「電話ですと、長くなるということもありますが、他の村民に聞かれると色々とまずいことになります。なので、お手紙でお伝えしたいのですが…」
素晴らしい