ここには無かったのに

ある日、寝室で使っている照明のリモコンが見当たらなくなりました。いつもはベッドに入ってから照明を消すので、枕元の決まった位置に置いてあります。スマートフォンより一回り小さいもので、床に落としてもすぐに見つかります。部屋から出した記憶はないし、なにより前夜それを使って明かりを消したのを憶えていました。

まずはベッドの周辺を見ましたがありません。布団をめくり、マットレスをはがしても見当たりません。ベッドと壁のすき間も見ました。念のため部屋のすみずみまで探し、箪笥の中までのぞきましたがありませんでした。

予備があったので困ることはありませんでしたが、何日かたってお風呂上りに部屋に入ったら、ベッドの前の床にそのリモコンがぽつんと転がっていました。

小さい部屋ですし、毎日そこで生活している上に、なにより周囲になにもない床の真ん中です。

これを見逃すはずがない。

この部屋には家族も立ち入りません。家族はリモコンがなくなったことも知りません。冬だったので戸締りも厳重にしていました。

どうしてここにリモコンがあるのでしょうか。

良い気分ではありませんでしたが、リモコンを拾っていつもの位置に置き、いつものように照明を消して休みました。

それも忘れかけたころ、今度は靴下が片方消えました。部屋に持って帰ったことは憶えています。すぐにしまえば良かったのですが、いったん箪笥の前に放置してしまいました。片付けようとしたところ、愛用の靴下が片方無かったのです。

そしてまた、いつの間にか床の真ん中に真っ黒な靴下が落ちていました。

妙に綺麗にたたまれていました。

もう考えるのはやめて引き出しにしまい、忘れることにしました。