廃倉庫の白い顔
投稿者:A (4)
俺とCは何度もお礼を述べながら頭を下げ、寺を後にした。
ここまでが俺が廃墟巡りで体験した不思議な話だ。
ぶっちゃけ俺自身は最初から最後まで幽霊を見ていないからBやCのように怖い思いをしていないし、担がれているのではと内心今でも疑問視することもある。
ただ、住職の厄除けを受けた後の充足感や、退院後にBを寺に連れていって、厄除けを受けたBの爽快な表情を見たら本当に憑りつかれていたのかなとも思う。
それから半年後くらいだろうか。
俺は夜中に廃墟探索で溜まったデータを整理していると、あの時の動画が目に留まったから何気なしに開いてみた。
そういえば廃倉庫の一件は本当に驚いたものだ、と苦笑しつつ再生した画面に目を向け、今となっては懐かしい思い出に浸りながら、俺は自分が撮影した動画を進めていく。
「ん?」
すると、俺は奇妙なモノを視界に捉え、スマホ画面を覗き込む。
何かが倉庫の窓に映り込んでいる。
数秒巻き戻して高窓を拡大してみると、何やら真っ白な能面のような人の顔が覗き込んでいる。
皮肉にも昨今のスマホの解像度はすこぶる高性能で、はっきりと写り込んだ満面の笑みを浮かべたソレは明らかにスマホ画面越しの俺と目が合っているように思え、どうにも居心地が悪く思わず目を逸らしてしまった。
そのまま動画を見ていくと今度は天井の梁を映した場面。
そこでも白い顔が梁の隙間から顔を出し、画面越しに此方を見てくる。
あまりに気持ち悪く薄気味悪い顔を前にして、俺は吐き気を催すが、どうしてか動画を見ていくと完全に目を離す事が出来なかった。
此方を見つめる顔は口許を歪ませてスーッと動画の節々に映り込む。
ところが、暫く画面に釘付けでいると妙な圧迫感を覚え、視線を画面の外へ移すと、スマホの裏側から白い能面のような顔がニタニタと嗤いながら俺の事を覗き込んでいる事に気が付いた。
「うわッ…!?」
悲鳴を上げて俺がスマホを放り投げて後退りすると、夢から覚めた様に白い顔はそこから消えていた。
俺は壁にもたれ掛かったまま床に落ちたスマホを見下ろすが特に動くこともせず、ただ動画の音声だけが鳴り響く室内で呆けていた。
それからというもの、俺はその白い顔を街中や学校、家等の至る所で見かけるようになった。
BとCはアレを見ていたのだろうか。
俺は恐怖から肩を震わせながら以前お世話になった住職に連絡したが、実際に会って話をした所特別憑りつかれているといった事はないと言われた。
それでも俺の必死な狼狽え様を見兼ねた住職は渋々厄除けを施してくれたのだが、前回のような充足感もなく、体は重たいままだった。
憂鬱な心境で帰宅するが、やはり例の顔は厄除け後も視界に現れてくる。
ただ、顔が現れるだけでそれ以上の進展は無く、Bのような実害を被る事はなかったのが救いではある。
いったいあの白い顔は何の目的であの廃倉庫に居て、何の目的で俺達に憑りついたのか分からないが、今は刺激しないよう過ごすべきだと、俺は極力悪い方向へ進展しないよう刺激しないように努めている。
そして、大学生となった俺は今でも住職に相談しながら解決への道を探している。
何れBの様に首を絞めて自殺未遂してしまうのではと思えば、不安で夜も寝付けない日々を過ごしながら。
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