廃倉庫の白い顔
投稿者:A (4)
俺はBからスマホを受け取ると、Cと共に肩を寄せ合って小さな画面を覗き込む。
動画は廃倉庫を見に行った時のもので、倉庫の外観を撮影している所から始まる。
Bの視点で映し出された景色は手振れが酷かったが、さっそく高窓を抑えたところで暫く静止してしまった。
恐らくBが高窓を見上げてボーッとしていた時のものだろう。
すぐ後に俺の声で『おい、行くぞ』と音声が入り、続いてBが『あそこなんか居ねえ?』と喋っている。
「やっぱ何も居ねえよな?C?」
動画を見ながら隣のCに感想を漏らすと、Cは物静かなまま固まっていた。
俺は何度か「C?」と呼んでみたが、Cは口許をワナワナさせながら顔を上げるとBを見て、BとCは何か通じ合ったように意思の疎通を図っていた。
よく分からずも俺は続きを見ていく。
と言ってもやはりBの視点で撮影されただけで、俺は自分の撮影した動画とCが撮影した動画の計二つを既に見ているせいか、特段目新しさは感じなかった。
ただ、時折画面が静止して一点を集中的に映すと、その度にCが「うわっ!」と情けない声を上げるもんだから気が散る。
中でもBが二階のギャラリーで転んだ際に俺が注意した場面では、恥ずかしながら下から見上げるようにBが俺を撮影するものだから鼻の穴が目立って仕方がない。
それに下からの角度は脂肪が重なってかなりブ男に見えた。
ただ、Cは顔面を歪ませており、Bは顔面蒼白になりながら震えているので、俺はいよいよドッキリの可能性を疑い始めた。
しかし、動画を見終えるなりCが「これマジか?」と真面目な表情でBに訊ねれば、Bが何度も壊れた玩具宛ら頷くのでマジで二人には何か見えていると思い始めた。
じゃあ、どうして俺にだけ見えないのだろう?
そんな疑問を抱えながら俺はCに訊ねてみた。
「俺、何も見えないんだけど何が見えたの?」
するとCは物凄く嫌そうに口許を押さえながら、どう表現していいのか思い浮かばないようで「んーと、何に例えた方が分かりやすいかなあ」とホラー映画作品の名前を列挙していたがそれらしい対象は見つからなかったようだ。
「端的に言えば、なんか物凄い笑顔の真っ白な能面?みたいな、それがこっちに向いてんのかな。最初の窓のトコとか、Bがスッ転んだ所は天井の梁の隙間から見てるし」
そう解説してくれたCは車酔いしたみたいに嗚咽を漏らすと、スマホから顔を背けた。
どうにも信じ難いが二人にはそれが見えるらしい。
だが、そのオバケが映っていたとして、Bの自殺と何の関係があるのか?
俺は単刀直入にBに訊ねてみると、Bは大きく深呼吸をして重たい口を開く。
「…その日からさ、この動画に映ってる奴が視界に映り込んでくんだよ。自宅の窓越しとか、テレビの裏側とか、それこそスマホを弄ってるとスマホ越しに見えたこともある」
それは嫌だななんて思っていると、Bは肩を震わせる。
「んでさ、夜寝てたらさ、夢の中でそいつがすげえ笑顔で近づいてきて、俺の首を絞めるんだ。夢って事が分かってんのに覚めないし苦しいしで、マジで殺されると思った」
「…それで?」
「目が覚めたらここだよ。起きたら母ちゃん泣いてたし、親父にはめちゃくちゃ叱られた」
「どういう事?俺達はBが…その、自殺しようとしたって聞いて…」
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