ドアを叩く正体
投稿者:七色 (4)
スマホを見れば既に深夜の二時を回っていて、犯人は今日も皆勤賞のようだ。
俺はすぐさま息と音を殺して玄関先まで移動を始める。
後はドアを叩くタイミングに合わせて目張りを外し、顔を確かめるだけだ。
引っ切り無しに続くドアドンのタイミングを相槌するかのような小刻みなリズムで計り、「ここだ!」というタイミングで目張りを外してドアスコープを覗き込む。
(…ん?暗いな)
そう思った矢先、俺は犯人が単眼鏡を使っている可能性を思い出す。
向こうがドアスコープに何か小道具を宛がっていたらこっちから何も見えないのではないか。
俺が暫く真っ暗な外の様子を覗いていると、時折背景の街灯の明かりがチラチラと見える事に気づく。
何かが動いている。
そう思った瞬間、ぼんやりとだが中年くらいのおじさんっぽいおばさん?らしき小太りな人影がドア正面に映り込み、中性的な顔立ちを見せる。
(おっさん?いや、おばさん?誰だコイツ)
街灯もそれほど明るくないので逆行となった表情を全て読み取るには頼りない。
それでも、明らかに見た事も無い他人を前にして俺は身動きできなかった。
本音で言えば、外国人窃盗団とか空き巣とか、そういった危険な想像をしていた事から、こんな小太りなおっさんともおばさんとも判別できない想定外な人種が登場してもどう対応すればいいか分からず混乱していたのだ。
まさか町内会の類とか?
同じアパートの住人で苦情を言いに来たとか?
大穴でこの人が大家なのだろうか?
様々な憶測が脳裏を過っていくが、俺の考え事とは裏腹にその人物は再びドアスコープに顔を押し当てるようにして接近し、視界を黒く染め上げた。
一瞬、直接覗いているのかと思ったのが、どうやらそうではない。
俺はその人物が何をしているのか察しがついた時、背筋が凍りつく思いだった。
そう、そいつはドアスコープを舐めまわしている。
スコープを覗いても真っ暗だったのは、そいつが顔をくっつけて口で塞いでいたからだった。
そいつはアイスキャンディーでも舐めるかの様に何度も舌で味わっては時折顔を離して恍惚な笑みを浮かべ、再び舐める事を繰り返す。
それらの行動から俺がこうして内側から覗いているとは露ほども思っていないだろう。
おまりにおぞましい光景を目の当たりにした俺は、結局その日は何もできずに息を殺してそいつが立ち去るのを布団の中で祈る事しかできなかった。
ドン!ドン!という音が俺の鳩尾を抉る様に体内に響いて気分が悪くなってきたが、あの異常者を正面切って相手にする勇気は俺にはない。
どうやら俺は眠っていたらしく、気が付くと朝になっていた。
早朝、俺は思い立ったように両親に電話をかけ、今すぐにでも引っ越したい旨を伝えた。
「なんだ急に?」「は?変質者?」「ストーカーか?」など、偶々出勤前の親父が居合わせたから話をする事になったわけだが、案の定、にわかには信じられなかったのか俺がストーカー被害に遭っていると最後まで勘違いが解けなかった。
実際、ストーカーよりやばい人種かもしれないが。
こわ
最後はアッー!ということでしょうか
お幸せに
同居させてもらってた時から、うっとり瞬間は何回かあったはず