受話器の向こうの声
投稿者:すだれ (27)
友人が疲れ切った声で言う。
「それは電話?それとも君のこと?」
聞くと友人は黙り込む。
「君のことは特に怖いとは思わない。詳しく聞きたいとは思うけど無理強いはしない。電話は正直むっちゃ怖い。電話向こうで人間が何かしらからかっていると思いたいけど君が聞いたというならまぁ、そういう存在と繋がってるんだろう。母には深入りするなと怒られたし。純粋に怖い。けどそれ以上に気になる。この電話の先が「沈んだダム底」に繋がってるのか、」
それとも、
「川辺で遺体で発見された親子に繋がっているのか」
…結局、この時は電話向こうの声を聴くことはできなかった。
受話器を耳に当てる瞬間、友人から手首を掴まれ、引き離されている間に通話時間は終了した。
「お前は変なヤツだから聞いちゃダメ」
まっこと心外だが、此方の手を掴む友人の手がガチガチと震えているもので、ようやっと絞り出すように「さっきの電話、親子と繋がってたよ」と言われれば、「そうか」と返す他なかった。
その後、友人の一件が子供中に広まると大人達の耳にも入り、「電話番号のかけ間違いによるクレームが学校に届いている」「怖がる相手に無理やり電話をかけさせる行為はいじめに繋がる」として、電話を使った度胸試しは校則で禁止された。
それでも隠れて電話をかける悪ガキは絶えなかったのだが。
友人は小学校卒業後、親の都合で地元から転校していったが、大人になった今でもたまに連絡を取り合い飲み交わしている。
相変わらず自分のことは「変なヤツ」呼ばわりで心外この上ない。
「いや今でもそうだけどさ、子供心でも「あ、コイツ頭おかしいな」って。あんなん見た後なのに逃げないで逆に聞きたがるなんてさぁ」
「顔面蒼白な君に無理やり話してもらうより自分で聞く方がいいと判断したのに…あれでも君を気遣ったのにこの言われようとはな」
「だからそれがズレてんだって。お前いつか死ぬよ。好奇心で」
鼻で笑いながら酒を傾ける友人。
当時のことを話せるようになった今でも、携帯や受話器を耳に当てる時、電話ボックスを思い出してほんの一瞬ためらうらしい。
「まあその次の瞬間には変なヤツの顔が思い浮かんで何ともなくなるんだけどな!」
「今日の酒代を折半したければそろそろ言葉を選べよ」
「わるいわるい、調子乗ったわ」
今でも地元の子供達の間では「そういう存在」に繋がる電話番号の話がまことしやかに語り継がれている。
「あの電話番号の噂、少し内容が変わって伝播しているようだよ」
「変わって?」
「昔に沈んだダムではなく、遺体で発見された赤ん坊連れの女に繋がるそうだ」
「…ああ、そういう」
「いたんだろうよ。君以外にも、その声を聞いた子供が」
彼女の声を聞くことのできた子供が。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。