無表情の狂気
投稿者:とくのしん (65)
新聞配達のアルバイトをしていたときの話。
真冬の夜中、いつものように配達をしていたときのことだ。
とある田舎の町営住宅に新聞を配ろうと、カブを停めたと同時にドンと何かに突き飛ばされた。
派手に転んだ俺は受け身を取ることもできずカブの下敷きになった。
カブのエンジンはかかったまま、エンジンのアイドリング音だけが空しくなっている。
倒れたまま顔を上げると、そこにはライトの明かりにぼんやりと照らされ、男が俺を見下ろしていた。
男は40代くらいの中年で坊主頭。
真冬なのに、ランニングと短パンという恰好で無表情のまま私を見下ろしている。
思わず「うわあああああ」と声を出して、その場から逃げようとしたが足がカブの下敷きになっていた。
おまけに真冬ということで防寒着を着ているので思うように動けない。
男は無言のまま俺に近づいてくる。
「誰か助けてください!」と叫ぶが、近隣の住宅から誰も出てくる気配はない。
さらによく見ると男は砂利道を素足で歩いていた。
砂利を拾って投げつけるが、男の歩みは止まらない。
何とか倒れたカブから足を引き抜いて逃げ出すも足が痛くて早く走れない。
男は無言のまま、さらに迫ってくる。
と、ここで恐怖よりもなんでこんな目に合うんだという理不尽に対する怒りで無性に腹が立った。
近くにあった物干し竿を手に取って、男を殴りつけた。
肩口に竿が当たったがうんともすんとも声すら上げない。
その様子にさらにムカついたので、今度は頭を狙ってフルスイング。
防御すらしないのでモロにヒット。痛そうな素振りを見せて頭を抱えてところを、今度は脇腹目がけてフルスイング。
初めて男が「ウッ!」と声を上げた。
怯んだ男を物干し竿で殴り続けた。
さすがに効いたのか男は踵を返し、暗闇に消えていった。
怒りが収まらない俺はしばらく男を探したが、見つかることはなかった。
しばらく探し歩いたものの見つからないので、カブを起こして配達を再開した。
後日談として、男を撃退した物干し竿は見事にひん曲がって使い物にならなくなっていた。
その家の住人に事情を話し弁償するハメになったが、時折近くの精神病院から抜け出す患者がいるそうだ。
この付近でもたびたび目撃されているらしく、気を付けるようにと言ってもらった。
もしかして豚男?