峠道に現れるスーツ姿の男、と…

霧っぽいんだけどちょっと違う。

煙の方がしっくりくる。

田舎の農家が色んなゴミを燃やして真っ黒い煙出してるときあると思うんだけど、ああいう煙が充満しているようなイメージ。

おじさんの言っていた”嫌な予感”がこうも目視で確認できるとは。

彼女はいつの間にか首が痛くなりそうな姿勢で眠っていた。

トンネルまであと50mほどだろうか。

春の夜、車の外気温計は16℃を示していたが、体感温度はまるで真冬のようだった。

低速でノロノロ走り、後ろから車が来てくれないか、対向車が来てくれないかとミラーや前方を確認する。

この煙のようなものが見えるのか聞こうと思い、彼女の足をトントンと叩く。

しかし彼女は一度寝るとなかなか起きてくれない…肩を揺さぶるが、「ん～…」と唸るだけだ。