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呪い・祟り

煙巻さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

俺たちに同乗する女性
長編 2022/05/07 21:51 8,383view
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なんて会話を一通り済ませると、Bを乗せたバイクは走り出す。
排気ガスの臭いを帯びた朝露の空気を吸い、俺はどことなく不安感を抱きながら小さくなっていくBの後ろ姿を眺めていると、何やらBの背後に誰かがしがみついているように見えたので目を擦った。

この時、何故か俺は高校2年の頃にAが田んぼに突っ込んだ出来事を思い出していた。

何度か瞬きをした後、改めて遠くのBを見据えれば、やはり遠目ながら長い髪を風に靡かせた人影がBにしがみついているように見える。
俺は咄嗟に隣にいるAに、

「なあ、Bの背中に何かついてる?」

と訊ねたが、Aは暫く目を細めてBを眺めるも、「鞄じゃね?」と斜め掛けのワンショルダーバックしか見えていないようだった。

午前過ぎ、Bが事故に遭ったとBの母親から連絡を受けた。
慌てて病院に駆け付ければ、なんとBは右足をギプスと包帯でぐるぐる巻きにされた、宛らきりたんぽ状態の右足を吊るしてベッドに横になっていて、俺は一先ず命に別条がないと聞いて胸を撫でおろす。

「マジで事故んなよ」

「悪い、普通に事故ったわ」

Aの時もそうだったが、Bも右足を骨折してる割には元気そうで拍子抜けだったが、完治までに3カ月はかかるそうだ。

そして、遅れてAがやってくるとBは事故の経緯を簡単に話してくれた。

なんでも、フルフェイスはしていたが、カーブに差し掛かった所で突然視界を塞がれたかのように目の前が真っ暗になり、慌てて急ブレーキをかけたがそのままスリップしてガードレールに突っ込んだとのこと。
右足は転倒時にバイクの下敷きになり、そのままガードレールに衝突した際にポッキリといったらしい。

そう頭を掻きながら説明するBは、ポツリと不穏な事を口ずさむ。

「でもなあ、何か手で目隠しされたような、そんな感じだったんだよな」
「葉っぱとかじゃね?」

楽観的なAは偶然葉っぱとかビニールが飛んできて視界に張り付いたんだろうと流すが、俺にはどうしてもそうは思えなかった。

やはりAの時と同様に何かがBの後ろに乗っていた。

俺は自分が見たものが見間違いや幻覚ではない事を確信するも、どうにも二人には切り出せないまま口を瞑る他なかった。

それからといえば、特段不可解な事も起こらず、高校を卒業するまで至って平和に過ごしている。
Bの事故以来、あの髪の長い女性らしき人影を見かける事はなく、AもBも完全復活して健康そのものだ。
俺も受験が終わると、卒業から大学入学までの数カ月を利用して教習所に通っており、高校卒業後の春休みというべきか、長期の休みの間に漸く普通免許を取得し、中古だが軽自動車を購入した。

電車の本数が少ない田舎ではこの手の移動手段が必須なのだ。
そう、俺も大学は県内を選び実家から通える距離にした。

そして今日も親から夕飯の買い物を頼まれいつも通り車に乗り、エンジンをかける。
この時、俺しか運転しないが毎回ルームミラーの調節をするのが癖となっていて、ルーティーン宛ら角度をいじるついでに車内を一望するのだが、俺は見えてはいけないモノを見てしまう。

AとBの事故以来目撃する事がなかった髪の長い女性らしき人影が、俺が乗り込んだ車の後部座席に座っている。

太陽で焼けたような黄ばんだ白地のワンピースは泥作業でもしたのか薄汚れており、熊と戦ったかのように所々解れては血痕がついているように見える。

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