僕の地獄と彼女の地獄
投稿者:sammy (1)
僕の上で激しく暴れる男の顔は、やはり無表情だった。
あれだけ激しく動いていたのに、息一つ切らしていない。
湿り気を帯びて重くなった布団を、一心不乱に突き刺していた。
そしてまた切り替わる。
もう何度そうしたのだろうか。
無表情で僕を見上げる男の目から、ゆっくりと光が失われていく。
やがて鈍い光の反射もなくなったとき、僕は何度かの深い呼吸をして、馬乗りになった男の上から下りた。
その手と握られた包丁からはテラテラと、黄色い脂肪の欠片まじりの血液がゆっくりとフローリングの床に零れ落ちる。
切り替わる。
男が最後に僕の腹部に深く突き刺した包丁をゆっくりと抜いて、ひどく怠そうな仕草でベッドを降りた。
そのときの僕には、男の行動を観察する意識はなく、眼球は表面に男を映すだけの透明のビー玉のように思えた。
男は包丁をシンクに投げ捨て、手を洗い、置いてあったコップに水を汲んで一気に飲み干した。
それからリビングを通り過ぎ、何事もなかったかのように玄関から出て行った。
僕は思った。
隣に眠る彼女は無事だった。
まるで初めからそこにいないかのように、男は無関心だった。
彼女は無事だった…
二人の僕の中を行ったり来たりした一人分の僕の意識はそこで途切れたのだった。
目を覚ましたのは6年後だった。
夜そのものを凍てつかせてしまいそうな冬の深夜、僕は無機質な病室の中で一人、目を覚ました。
はじめはそこが何処だか解らなかった。
素晴らしい❗
おいおいおい・・・
ためはち