僕の地獄と彼女の地獄
投稿者:sammy (1)
どうしてそれまで気付かなかったのだろう…?
特徴的な緩いウェーブは、母親譲りのクセっ毛だった。
僕は布団から目だけを出し、じっと男の顔を見ていた。
次の瞬間、鋭い痛みと硬い金属の感触が僕の胸に突き刺さった。
男は再度両手を振り上げ、力任せに包丁を振り下ろす。
硬い肋骨に阻まれた刃先は、三度目の殺意を腹部に振り下ろす。
包丁は大した抵抗もなく、僕の腹部の中に飲み込まれていった。
男の目と、一連の行動には一切の迷いや躊躇いなど微塵も感じられなかった。
振り上げては振り下ろし…振り上げては振り下ろし…
もう一度、もう一度、もう一度…。
何度目のことだろう…
僕の意識と視界が突然切り替わった。
僕は無表情で自分を見つめる男の上に跨り、狂ったように刃物を振り下ろしている。
自分の家で彼女の隣に寝ている知らない男に、言いしれない怒りと殺意を感じていた。
包丁は血にまみれ、男が掛けている布団には黒い染みがじんわりと広がっている。
胸や腹を何度刺されても顔色一つ変えず、呻き声一つあげないその男に、薄気味悪いものを感じていた。
長い前髪が流れて男の顔がはっきりと見えたとき、背中にゾクリとする冷たい悪寒が走った。
腕の中で血管が凍りつく感覚とでもいうのだろうか、指一本動かすことが出来なかった。
それはまるで、血の通っている人形のような目をしていた。
男は僕だった。
自分の体に突き刺さる刃物ではなく、ただ静かに僕の目だけを見ていた。
そしてまた視界と意識が切り替わる。
僕は口から血のあぶくを吐きながら、僕を殺そうとする男の行動をなんの抵抗もせずにただずっと見ていた。
素晴らしい❗
おいおいおい・・・
ためはち