展望台の朝霧
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
初夏のある日、大学の先輩からR山の展望台で朝日を見に行こうと誘われた。
先輩は少し強引なところがあって断れなかったのと、たまにはそんな事もいいかと思い引き受けた。
R山の展望台は綺麗な朝日が見える事で有名だからだ。
俺は前に来たことがあるから、この展望台の事は知っている。
駐車場の奥にある展望台の入口から向こうの端までは200mほどで、その一番奥には慰霊碑があり、脇にある登山道から山の頂上まで登れるようになっている。
その間には自販機コーナーや屋根付きの休憩所などがあり、ちょっとした公園のように整備されている所だ。
当日の深夜というか早朝に、予定通り先輩が車で迎えに来たので、デジカメを持って展望台へと向かった。
こんな朝早い時間には車がほとんど走ってなくて、予定の1時間も前に到着してしまった。
車が1台も無く人気のない駐車場の一番奥に先輩は車を停めた。
日の出まではかなり時間があるので、車のシートで仮眠を取ろうということになった。
ここまではまあ予定通りだったが、昨日雨が降ったせいで雲が出ていれば、朝日は見る事ができないかもしれない。
そんな事を考えながら、車の窓を開けてシートにもたれているうちに、二人ともいつしか眠ってしまった。
どれくらいの時間が経ったのだろうか、俺は何かの拍子にふと目を覚ました。
開けていた車の窓から「霧」が中に入ってきていたのだ。
これでは朝日は見れないだろうが、この霧の様子でも撮ってやろうと思い、デジカメのスイッチを入れた。
まだ周りは暗かったので、先輩を起こさないように車を降りて霧の写真を撮り始めた。
この暗い中では自販機のわずかな明かりだけが頼りだが、それだけでも心強い。
駐車場から展望台までを覆うような霧は、俺の頭の上を流れるように展望台の奥へと流れていった。
よく見ると、霧は5本の長い帯状をしていて、大きな手の指のようにも見えるし、人が飛んでいるようにも見えた。
俺はこの珍しいこの光景を撮影しようと、1歩歩くたびにデジカメのシャッターを切っていた。
しかし、いつしか次第に撮影をやめてしまい、霧の流れに従うようにただ歩いていくだけとなっていた。
俺は何かに取りつかれたように、何かを追いかけるように展望台の奥へと進んでいくが、そこにはもう慰霊碑しかない。
フラフラと、ゆっくり、そして確実に慰霊碑に向かって歩いている途中の事だった。
「おい!」
と、急に大きな声が聞こえ、肩を掴まれて我に返った。
振り向くと、恐怖に震えているというか、見てはいけないものを見たというか、今まで見たことのない表情の先輩がいた。
「帰るぞ。」
と先輩に言われ、力ずくで腕を引っ張られて駐車場に戻り、車に乗り込んだ。
帰りの道中は二人とも無言だったが、俺のアパートの前で車を停めると、先輩は何があったかを教えてくれた。
先輩が仮眠を取っていたら俺が車にいない事に気が付いて、車を降りてみると俺は霧の中で写真を撮っていたという。
何度か俺に声をかけたが返事はなく、霧の流れに沿って慰霊碑に向かってただ歩いていたそうだ。
霧の流れる方向を見ると、慰霊碑の横の登山道に人が5人立っていた。
最初は登山客かと思ったが、それらしい車なんて無かったから、少し不思議に思ったそうだ。
よく見ると濃い霧は5つに分かれていて、その一つ一つが5人の体に吸い込まれているように先輩には見えたらしい。
その体は白い半透明のぼんやりとした形をしていて、本能的にこれはまずいと思って大声を出して俺の肩を掴んだ、という事だった。
行かないほうがいいよ〜(涙)
行こうかな?って思う自体呼ばれてるよ〜
自分も同じような体験した
飯森山の白虎隊の慰霊碑のそば
其処から ただなにかに引かれるように近くの会津城が見渡せる場所にいた
胸の中に白虎の声が聞こえた