風の鳴るホテル
投稿者:Jacob (7)
その夜、私は緊張しつつ布団に入りました。
それに対し夫はあれから何か気にする風もありませんでした。
そんな夫を見て私は、そのまま寝入ってしまいました。それから朝まで、特に何かが起こることはありませんでした。
翌日、私たちは朝食を済ませたのち、ホテルをチェックアウトしました。
ホテルを出て、車のある駐車場までの道を歩いていたのですが、私は思い切って夫に話を切り出しました。
もちろん日を跨いでもなお気になっている、昨日の夫の様子についてです。
はじめ夫は相変わらず濁すような返答を繰り返していたのですが、やがて駐車場につき荷物を詰め込んでから、彼は諦めたかのように「わかった」といいました。
夫は「あんまり怖がらせたくなかったから、いいたくなかったんだけど…」と前置きをしてから、私にスマホを見せてきました。
開かれていたページには、見覚えのあるホテル外観の写真が張り付けてありました。あの張り出た非常階段が特徴的な、昨日私たちが泊まったホテルです。
写真と一緒に、なにやら記事も書かれていました。
私は改めて夫からスマホを拝借し記事を読み進んでいくと、ざっと血の気が引きました。
そこにはあの非常階段から飛び降りがあったと書かれていたのです。
それから夫はぽつりぽつりと話し始めました。
夫が言うには、あのホテルの部屋に入ってまず気になったのが「音」だったそうです。
例えるなら「ゴオオオ…!」というような、トンネル内を車で走ったときに聞こえるような感じだといっていました。
はじめ夫は風の音かと思ったそうです。けれど夫はすぐに風とは違うと直感したそうです。
気になった夫は、窓を開けて確かめることにしたのだといいました。
窓から首を出して真っ先に気になったは、下に広がる街並みではなく部屋のすぐ隣にある非常階段だったそうです。
じっとその非常階段の様子を窺っていたら、突然そこから人間のような何かが落ちたのだといいました。
そのとき夫は確信したそうです。
夫が気になっていた「音」が、その何かが落ちていく「音」なんだということに。
そしてそれは何度も繰り返しているとのことでした。
それから夕食を食べに外に出たとき、ふと気になってあの非常階段を見上げたら、相変わらず何かが落ちていくのが見えたそうです。
それでもしかしたら調べたら何か出てくるのかと思って、スマホでこのホテルを調べてみたら案の定…、とのことでした。
夫は私が怖がりだとしっていたため、黙っていたそうです。
あれから数年経ちますが、いまだにこの出来事は忘れられません。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。