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ヒトコワ

バクシマさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

いとしのカノジョ
長編 2022/04/09 02:08 7,979view

「それとお母さん・・・」
「うん、なにかしら?」
「イトシイってなに?」
「愛しい?大好きって意味だけど、なんで?」
「ん、なんでもないや。」
「そう?
それにしても、あなた難しい言葉を知っているのね。」

私はアルバムをしまい、息子を公園に遊びに行かせました。
眼鏡をかけた旦那が居間で新聞を読んでいます。
私は、旦那に梅昆布茶を淹れてあげようと、お湯を沸かしました。
コポコポとお湯が音を立てています。
最近、あの当時の彼女にだんだんと近づいている気がします。

髪型をロングにしたり、紅いマフラーを巻くようにしたり・・・
ふと、私は彼女の好きだった洋曲を思い出して、それをかけることにしました。
その死を偲んで・・・
オーディオから音色が流れてきます。
旦那が、読んでいた新聞をテーブルに下ろして、

「君、その曲好きだよね。
なんて名前の曲だっけ?
・・・イギリスのロックバンドの・・・
・・・えーっと・・・」
彼女のことを、私は永遠に忘れないでしょう。
「・・・クイーンの、
ボヘミアン・ラプソディよ・・・」

「そうかそうか。」
「・・・昔に亡くなった親友が好きだったのよ」
「そうだったんだ・・・でも、亡くなった友人の好きな曲をずっと憶えていてあげるなんて、
君は本当に優しいんだね」
「ありがとう。あなたにそう言ってもらえると、あたしとっても嬉しいわ。」

・・・公園にて・・・
息子が一人でブランコに座り、独り言を言っている。
「・・・そっかぁ、いつもお母さんのとなりにいる人って生霊じゃなくて、もう死んでいたのかぁ」
優しい夏の潮風が、息子の身体を抜けていった。
息子は首をあげて、空をのぞむ。
「大人の前では幽霊と喋らないようにしてたのに・・・さっきはうっかり反応しちゃったなー。反省反省。
でもまぁ、写真の女の人、
その本人が一緒にアルバムを覗いていたんだから・・・仕方ないよね。」
息子は独り笑う。

5/6
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