「それとお母さん・・・」
「うん、なにかしら?」
「イトシイってなに?」
「愛しい?大好きって意味だけど、なんで?」
「ん、なんでもないや。」
「そう?
それにしても、あなた難しい言葉を知っているのね。」
私はアルバムをしまい、息子を公園に遊びに行かせました。
眼鏡をかけた旦那が居間で新聞を読んでいます。
私は、旦那に梅昆布茶を淹れてあげようと、お湯を沸かしました。
コポコポとお湯が音を立てています。
最近、あの当時の彼女にだんだんと近づいている気がします。
髪型をロングにしたり、紅いマフラーを巻くようにしたり・・・
ふと、私は彼女の好きだった洋曲を思い出して、それをかけることにしました。
その死を偲んで・・・
オーディオから音色が流れてきます。
旦那が、読んでいた新聞をテーブルに下ろして、
「君、その曲好きだよね。
なんて名前の曲だっけ?
・・・イギリスのロックバンドの・・・
・・・えーっと・・・」
彼女のことを、私は永遠に忘れないでしょう。
「・・・クイーンの、
ボヘミアン・ラプソディよ・・・」
「そうかそうか。」
「・・・昔に亡くなった親友が好きだったのよ」
「そうだったんだ・・・でも、亡くなった友人の好きな曲をずっと憶えていてあげるなんて、
君は本当に優しいんだね」
「ありがとう。あなたにそう言ってもらえると、あたしとっても嬉しいわ。」
・・・公園にて・・・
息子が一人でブランコに座り、独り言を言っている。
「・・・そっかぁ、いつもお母さんのとなりにいる人って生霊じゃなくて、もう死んでいたのかぁ」
優しい夏の潮風が、息子の身体を抜けていった。
息子は首をあげて、空をのぞむ。
「大人の前では幽霊と喋らないようにしてたのに・・・さっきはうっかり反応しちゃったなー。反省反省。
でもまぁ、写真の女の人、
その本人が一緒にアルバムを覗いていたんだから・・・仕方ないよね。」
息子は独り笑う。





















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