呪いの弱体化（※自己責任系）

「……何か見えね？」

Ｂが何を言いたいのか分からないが、俺は首を横に振る。
そうするとＢはため息をつき、もうちょっとだけ寝ると言い出した。

まあ俺もまだ眠たいので止めはしなかった。

そして、俺もたまらず自分のスマホを操作し始め、例の手術室で撮影した一枚を表示する。

三人には言っていないが、その一枚にはただの天井以外にあるモノが写り込んでいる。

一見して薄汚れて亀裂の入った天井に這うように、夢で見た長髪の人型が四肢を広げてしっかりとカメラに向き直っている姿が収められているのだ。

俺は何となく声に出さずこの写真を三人に見せたが、誰一人この存在について突っ込まないのでいよいよ言いそびれてしまい、今しがた悪夢を見たせいで余計に怖くなってしまった。

心の何処かで御祓いに行った方がいいのかとも考えたが、心霊現象を否定し続けた俺が真っ先にお寺へ駆けこむのは情けないにもほどがある。
それに幽霊が存在しようが物理的に何が出来ると言うのだ。

俺は撮影した画像を消去し、二度寝に入った。

それから時間は飛ぶが、僅か二か月後にＢが自殺した。

正直、その訃報に驚きはしなかった。
と言うのも、あの肝試し以降、俺達の周辺に限り不可解な事が起き始めたのだ。

小さいことは、置いてあったコップが落ちて割れたり、深夜にアパートのチャイムが鳴ったりと悪戯のような出来事。
大きなことは、俺が階段を踏み外して捻挫したり、Ｄが車に当て逃げされて腕の骨にヒビが入ったりと不運が続いた。

そして、特に顕著なのがＢだったのか、日に日に顔色が悪くなったかと思えば、嘔吐や下痢などの症状を繰り返しやせ細っていき、最終的には通院していた病院から胃癌を宣告され憔悴しきっていた。

さすがに不幸が続き過ぎたので近所の寺で二カ月前に廃病院に行った事を洗いざらい白状して御祓いを頼んだが、住職は表情を曇らせた後、静かに首を振った。

「……私もね、神仏に仕えるようになってからこれまで似たような人から祈祷や供養を頼まれたもんだが、幽霊の存在を信じたことはないよ」

そこの住職はこともなく俺のような幽霊否定派らしく、開口一番そう言っていた。

ただ、そんな経験を積み重ねてきた住職でさえ、俺達を見た時から嫌な雰囲気を嗅ぎ取っており、かなり顔を歪ませていたと思う。

「一応、御祓いはしてあげられるけど、心霊現象なんてのは所謂脳のバグやストレスによる錯覚だと思いなさい。そうしないと精神がやつれてどんな病魔にも付け込まれる脆弱な人間になってしまうからね」

住職はまるで子供をあしらうような感じにしては優しく語り掛けてくれた。
費用についても「私が出来る事はそう多くないから」という理由で1時間強の読経を無料で引き受けてくれ、俺達は心底救われた気持ちで御祓いをしてもらい、少ない手持ちから持ち寄った謝礼金を住職へ半ば強引に押し付けた。

ただ、Ｂに関しては病状がまだマシな時に御祓いを受けてもらったが回復する見込みもなくひたすら病んでいくばかりで、住職も「私も医者じゃないから流石に病気までは、ね……」と何やら歯切れの悪い言葉で着飾り申し訳なさそうに頭を下げる。

そして、それから数週間後にＢは「誰かが見ている」などと譫言を繰り返すようになり、次第に情緒不安定になると病室で精神疾患者が装着する拘束具なんか付けられるのだが、その数日後にどうやって拘束具を解いたかわからないが、自らの首を絞めつけるようにして亡くなっているのを担当医が発見したという。

Ｂが自殺した数日後、今度はＣが原因不明の意識障害により緊急搬送された。
俺とＤは恐怖から再び住職の下へ訪れたが、何と住職は代替わりしており、御祓いをしてくれた前任者は体調を崩して寝込んでいると聞いた。

もしかして俺達の御祓いを引き受けたせいで呪いにあてられたのか？なんて自責の念に苛まれながら帰路につくと、俺は他に方法がないかネットで調べ始めた。

その中で面白い投稿を見つけた。