影絵遊び
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
僕がまだ小学生の頃、お盆に親戚の家に集まった時の話だ。
親戚の家というのは、父の兄(「長男さん」と呼ぶことにする)の家の事だ。
家のお座敷と廊下の間は障子で仕切られていて、その先には立派な日本庭園がある。
お盆に親戚が大勢集まると、大人は遅くまで酒を飲み、子供たちは家中を走り回って遊んでいた。
夜になると、子供が決まってやる「影絵遊び」という遊びがあった。
何かの手違いなのか庭の灯篭の灯は妙に明るく、廊下の灯も手伝ってか、障子を閉めると廊下にいる人の影が写る。
それを利用して、子どもたちが廊下に代わる代わる登場し、障子に映った影を見たお座敷の大人がそれが誰なのかを当てる、という遊びだ。
ただ歩くだけの子もいれば、受け狙いのポーズで笑わそうとする子もいて、酔った大人が大笑いして子供の名前を言うのだ。
名前を当てられた子供は、自分で障子を開けて「大正解~!」と言った後は障子を閉め、廊下の突き当りの部屋へ入っていく決まりだ。
そのお盆の日はちょうど10人の子供がいて、いつものように影絵遊びが始まった。
子供たちは順に廊下に出て、大人たちが名前を当てていく。
最後の10人目、その日はそれが僕だったのだが、名前を当てられて「大正解~!」と言って障子を開けた。
最後の子は障子を閉めなくても良かったのだが、僕はうっかり閉めてしまい、突き当りの部屋に入った。
部屋のドアを閉めていたから、僕も含めた子供たちは、お座敷からの声や音しか聞こえてなかった。
すると、お座敷の方から「これは〇〇君だな!」とか「○○ちゃん!」という声が聞こえてきた。
ところが、いつまでたっても「大正解~!」という返事が聞こえない。
「いったい誰だ?」という声とともに障子を開けた音がしたから僕はドアを少し開けると、障子を開けた間から首だけ出した長男さんのポカーンという顔が見えた。
長男さんは廊下をキョロキョロ左右を見渡すと、僕に「他に子供が誰かいるのか?」と聞いてきたが、僕は「もう誰もいないよ。」と答えるしかなかった。
この部屋には10人の子供が全員いるのだ。
それ以来、影絵遊びは禁止された。
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