登山道の不気味な親子連れ
投稿者:足が太い (69)
1人で山登りをしていた時の話し。
山登りと言ってもそこまで本格的なものではなく、観光気分でサクサク登れる初心者向けの登山道を歩いていました。
季節は秋で、暑くもなく寒くもないちょうど良い気温ではあるものの、平日ということから、私以外にその登山道を歩いている人はいませんでした。
わいわい騒がしい雰囲気が苦手なこともあり、とくに気にならなかったのですが、「以前来た時は平日でもそこそこ人がいたのになぁ」と、ちょっと不思議に感じていたのです。
登山道を歩いて20分程経った頃、前から親子連れが下ってきました。
40代くらいの父親らしき男性と、同年代に見える母親らしき女性、そして、その2人の子供らしき小学生くらいの男の子と女の子の4人家族です。
登山道は十分な広さがありましたが、私は一応道の端に寄って、親子連れが通り抜けやすいようにしました。
すると先頭を歩いていた父親が「こんにちはー、ありがとうございます」と爽やかにお礼を言って通り抜けていきました。
その後に子供達が続いて通り、最後に母親が「こんにちは」と声をかけて通っていったのです。
(私だけかと思っていたけど、先に登っていた人がいたんだ)
何となくそう思いながら、またしばらく登山道を歩いていると、10分程歩いた頃に前方に先程見た親子連れがいたのです。
親子連れはさっきと同じように私に声をかけて、私の横を通り過ぎていきました。
さっき登山道を下っていった人がもう一度同じように下っていくなんて、道に迷って登山道を上ってしまうくらいしか理由が思い浮かびません。
他の山であればそれもあり得るでしょうが、私が今いる登山道は1本道で迷いようがないので、それはあり得ないことなのです。
ということは、さっき見かけた親子連れは生きている人ではなく、幽霊か、それとも妖怪の類ということになります。
私とあの親子連れ以外見かけないことにも恐ろしさを感じ、半分も登っていないものの、今日はもう登山は諦めて家に帰ることにしました。
しかし、体を反転させて登山口を下っていくのですが、歩いても歩いても、いつになっても下に辿り着かないのです。
腕時計を見ると、下に向かって歩き出してから既に2時間が経過していました。
(これはもしかして、タヌキかキツネにでも化かされているのかもしれない…)
非科学的なことがふと頭を過りました。
普段の私であればそんなこと思い付きもしませんが、今の異常な状況を考えると、妖怪の類に化かされているとしか思えません。
一休みがてら道の端に立ち止まり、両手の人差し指をペロッと舐めて、その人差し指で両の眉毛を撫でました。
子供の頃、祖父から「狐狸に化かされた時は眉に唾を付けると騙されなくなる」と、言われたのを思い出したからです。
他にも「煙草をくゆらすと狐狸は煙草の煙を嫌うからすぐに逃げて行く」「煙草の灰を靴に擦りつけておくと化かされない」「尿を自分の体にかけると穢れと臭いを嫌がる」と教えてもらいましたが、山で煙草は危ないし、後者はちょっと気分的に嫌なので、こちらは試しませんでした。
それから10分程休憩して、再び登山道を下っていると、あの親子連れがこちらを向いて道の真ん中に立っているのが見えました。
しかし、先程とは少し様子が変です。
親子連れの顔はのっぺらぼうのように目も鼻も口もありません。
それなのに私に向かって、父親が「こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは」と、壊れたラジオのように声をかけてきます。
子供達は何も話さず黙ったまま、母親も「こんにちは、こんにちは」と父親と同じように繰り返しているのです。
近づきたくなかったのですが、この道以外通れる道がないのもあり、私は父親の声を耳に入れないようにしながら下を向いて早足で親子連れの間を無理やり通り過ぎました。
シンプルに怖い
こういう時のためだけに普段は吸わないのに登山の時にはタバコを持っていく人がいるらしいですね