症候群
投稿者:りう (54)
自宅の最寄駅 近くには陸橋がある。
階段が長く、普通より少し高さのある陸橋だ。
今日も仕事を終えて電車を降り、改札を出て陸橋に昇りきると、女の人が飛び降りようとしていた。
「ちょ、ちょっと待って、待って!」
と、とっさに走り寄って、腕を掴んで引き戻した。
こういう時、ドラマとかだと説得が始まったりするが、
実際はそんな猶予はないと思った。
もう必死に走り寄って阻止した。
女性はか細い声で
「すみません…」
とだけ言って座り込んだ。
その後は110番して、おまわりさんに引き渡した。
それから数日後、いつものように改札を出て、何となく陸橋を見上げてみると、階段を昇りきったあたりに人影が見えた。一瞬しか見えなかったが、見覚えのあるシルエットだった。
すぐに陸橋に昇らず、しばらく下で様子を見ていると、他のサラリーマンが昇り始めたあたりで、その人影はゆっくりと陸橋の中央部あたりに移動して、手すりに足を掛け始めた。
下から昇って来る人を確認しながら。
「なるほどな。」
「止めてほしい症候群 (かまってチャン)ってやつか、」
案の定、飛び降りようとする女性に気が付いたサラリーマンが走り寄って、事なきを得たようだった。その日は遠回りして陸橋を使わず帰宅した。
1週間後、陸橋の上に、人影を確認した。
ゆっくりと昇り始め、昇りきって中央部あたりを見ると、例の女性が片足を手すりに掛けていた。
そのまま通り過ぎると
「ぐちゃ」
と落ちた音がした。そして電車にひかれた。
「あ〜間違えてた。見せたがり症候群だったか、、」
ご冥福をお祈りします