出られない霊園
投稿者:徹 (13)
短編
2022/03/04
08:10
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数年前にふらりと雑司が谷霊園を訪れた時の体験です。
仕事の都合で池袋にきた私は、好きな文豪の墓がある雑司ヶ谷霊園に立ち寄りました。
目的の墓を拝んで写真を撮り、さあ帰ろうと腰を上げたのですが何故か出れません。何度来た道を引き返しても同じ場所にでてしまうのです。
雑司が谷霊園の面積が迷子になるほど広いはずありません。途方に暮れて立ち尽くしているうちに夕暮れが迫り、冷たい風が吹き付けてきます。
私は文豪の墓に向き直り、たまたま持っていた彼の文庫本を捧げて祈りました。
「お墓を見世物にしてすいません。お願いですから帰してください」
もちろん返事はなく、何をやってるんだろうと自分にあきれる一方で藁にも縋る心境でした。意を決して再び踏み出せば、今度はあっさりと霊園を抜けることができました。
友人知人に言ってもなかなか信じてもらえませんが……あれは野次馬たちの失礼な態度にうんざりしていた文豪の、ちょっとしたイタズラだったのでしょうか。
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