使われていない線路
投稿者:魔界塔士 (8)
これは私が幼いころに体験したお話です。
私が小学生のころ、家の近くに貨物列車用の線路がありました。
その線路はもう何年も使われておらず、近所の子供たちの秘密の遊び場となっていました。
いつものように線路で遊んでいると、近くを通りかかったおばあさんが「こら!危ない!早くそこから出なさい!」と怒るのです。
貨物列車が走っているのを見たことがない私たちは、危ないわけがないのにと落胆しながらその場を離れました。
またある日、線路内で探検ごっこをしていたとき、近所に住むおばさんたちがジロジロこっちを見てひそひそ話をしているのがわかりました。
不思議に思った私は、家に帰って母に尋ねました。
「あの線路なんかあるの?」と。
母は一瞬驚いたような顔をしましたが、すぐさま我に返ったように「線路は危ないから遊んだらあかんよ。」とだけ言いました。
母の一瞬戸惑った顔に疑問は覚えましたが、それからは線路のことを気に留めることもなく過ごしていました。
しばらく経ったある日、いつもの帰り道を歩いていると、どこからかカンカンカンと音がするのです。
気になった私は音の鳴るほうへ行ってみました。
するとあの線路が通る踏切の警報機が鳴っているのでした。
鳴るはずがないのにです。
少しの恐怖心はありましたが、誤作動だろうとその場を後にしました。
家に帰り、家族で夕飯を食べながらその話をしていると母が唐突に話を始めました。
「お母さんがまだ子供やった頃、同い年ぐらいの小さい子どもがあの踏切で列車に跳ねられて亡くなったんよ。跳ね飛ばされて全身バラバラになり、遺体のほとんどは回収されたけど、頭だけは最後まで見つからんかったんや。あれはかわいそうな事故やった。やからこの辺に昔から住む人はあの悲劇を思い出したくないから子どもが線路で遊ぶんを嫌ってるんや。」と。
その話を聞いて私はスッキリともモヤモヤとも言えない気持ちになりました。
そして寝る前、踏切の警報機の音を思い出し、ぼーっと考え事をしました。
亡くなった子が一緒に遊ぼうと私を誘っていたのではないか、と。
あれから警報機の音を聞くことはありませんでしたが、大人になった今でも踏切の近くを通るとあの音を思い出します。
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