万燈祭の夜に
投稿者:笑い馬 (6)
故郷に伝わる出典不明の噂話。郷土史のどの資料にも載っていない。
私の祖父から口伝で聞いたことがある程度の話だ。何でも、石燈籠に火を灯した者は発狂するのだとか。火を灯す所を見るのもよくないーーらしい。
実際、そんな石燈籠は境内のどこにも存在しない。
子供の頃、山に分け入って『赤い石燈籠』を探したことがあった。
藪をかき分け、小枝を払って、『祈りの広場』周辺を調べ尽くした。
燈籠どころか荒れ地すら見つからなかった。荒れ地に至る獣道とやらもハッキリしない。
私はその噂話を簡潔にA君に説明し、ついでにA君にO君を紹介してやった。
「興味深い言い伝えがここにはあるのですね」とA君が話す。
「言い伝えなんて大層なもんじゃないよ。ただの子供だましの噂話さ」とO君が格好つける。 A君とO君は気が合ったようで、『赤い石燈籠』の伝説をテーマに話をしている。
O君の話は、私の祖父から聞かされていたものとほぼ同じものだった。『赤い石燈籠』のある荒れ地へは『祈りの広場』から獣道を進むことでしか到着できない、という点も一致している。
だが、一点だけ聞いたことのない話があった。
ーー万燈祭の日に獣道は開かれるーーという話だ。
O君はその話を元に、今日ここへ登ってきたのだと言う。
「初耳だな」と私が言うと「俺の家の倉庫からその話が書かれたメモを見つけたからな」とO君が答えた。
私たち三人は『赤い石燈籠』に至る道を探すことにした。
獣道は簡単に見つかった。
『祈りの広場』の石仏が沢山並ぶすぐ脇に、薄明かりに照らされて獣道が浮かび上がって見えた。
子供の頃、日中に獣道を探したときは見つからなかった。だが今晩はあっさりと見つかった。
昼間は見えない道。
『万燈祭』の日のみ見える道。
A君は「光量の加減ではないか」と考察していた。
昼間は太陽の光が上空から降り注ぐ。光は木々が伸ばす枝葉に遮られ、地上を走る獣道に暗い影を落とす。
日中に家の外から屋内を見ると何も様子が分からないように、光溢れる日中において、明るい所から暗い所を見ると、暗い所は何も見えなくなる。
だから昼間には見つけにくい獣道。
A君の解説はなるほど納得できるものだった。
私たちは獣道を進む。
獣道の両側には石楠花(シャクナゲ)の低木群。石楠花の枝はみっしりと伸び、この木々をかき分けて進むのは困難である。
木々の茂る林から分け入り、そこから獣道へと進もうとすると石楠花の群生地に阻まれて先に進めなくなるわけだ。
つまり、『赤い石燈籠』のある荒れ地へ至る獣道は『祈りの広場』からしか通れない。そのようになっているわけだ。
石楠花が市街地によくある並木道のように、獣道の両側にずっと生えている。
良かった
渡来人!
良い
でも血はA君のじゃなかったのか…A君は神隠し(のようなもの)?
怖い…とは違うけれど、物語としてとても面白かった。
面白かった。
興奮ポイントは少ない。が、脚色すれば何とでもなる。
つまり、元ネタとして使えそうな話