万燈祭の夜に
投稿者:笑い馬 (6)
いずれの五輪塔にも円筒形の行灯が奉納されていて、それらの明かりが本来真っ暗であるはずの山域を煌々と照らしている。
神秘の山、幽玄の世界。
数十のろうそくが揺らめく灯りは広場の中央にそびえる石の塔を神々しく照らしていた。
「美しい」とA君が呟いた。
「さあ石仏に供えよう。五輪塔群の裏側、影になってるところに石仏が沢山あるから」
広場の中央、五輪塔をぐるりと回り込んで、広場の奥まった所にわだかまる暗がりへと案内した。
薄暗い中に百体近い石仏がひっそりと群れている。
「仏さまもここまで数が多いと不気味だね」とA君がぼそりと呟いた。
京都・石峰寺の五百羅漢よりは石仏の数は遥かに少ないが、それでもここ『山岩寺』の名所、『祈りの広場』に並ぶ石仏の数々には圧倒される。
百体近い石仏のうち、いくつかの石仏の前にはすでに行灯が供えられている。
「私はこの石仏に供えるよ。色黒の石仏だ。きっとご利益がある」
私は直感で石仏を選んだ。 他の石仏よりもひときわ色の黒い石に彫られた石仏だ。
A君はとても古そうな苔の生えた石仏に行灯を供えた。
手を合わせてお祈りをし、もと来た道を引き返す。
石段を下ろうとしたとき、下から行灯の灯りが一基、すうと登ってくる。
誰かが『祈りの広場』の石仏に行灯を供えようと、石段を登ってきているのだろう。
灯りは近づいてくる。
やがて灯りが私たちの目の前までやってきて、ふいに止まった。
「よう、誰かと思えばMさん家の長男坊じゃないか」
灯りの主は陽気な声を出した。
よく見れば、行灯を持って石段を登ってきたのは山向こうの集落に住んでいるO君という名の青年だった。
「なんだO君か。集落行事が嫌いな君が祭に参加するなんて珍しい」
「この行灯は石仏に供えるんじゃねえよ。例の赤い石燈籠に火を灯すためさ」
「赤いイシトウロウ?」
私は首を傾げた。
それは確か、地元に伝わる伝説だ。
『祈りの広場』から獣道を進んだ先に辿り着ける小さな荒れ地。
鬱蒼としげる木々の間に開けた荒れ地、その『赤い石燈籠』はそこに存在するという噂だ。
ーー犬の刻、山岩寺の赤い石燈籠に火を灯す。縄に繋がれ海を渡りし一族が、いざないの炎に捧げられし日、まほろばの怨みは地に満ち野を覆うーー
良かった
渡来人!
良い
でも血はA君のじゃなかったのか…A君は神隠し(のようなもの)?
怖い…とは違うけれど、物語としてとても面白かった。
面白かった。
興奮ポイントは少ない。が、脚色すれば何とでもなる。
つまり、元ネタとして使えそうな話