それはゆらゆらと
投稿者:piko (6)
同じ目線の位置の向かい側のアパート。
そこの5階の踊り場にいる人影。
その人影は首を下げて肩を揺らしています。
私は夢から覚めるまで、ただただその仕草から目を離せずにいるのです。
私の異常行動は2ヶ月経っても続いているようで、強制的に父に連れられ病院で診てもらいましたが、やはり夢遊病とは関係ありませんでした。
ただ、もしかしたらストレスの類いではないかと言われ医者に内科等のメンタルケアを紹介されました。
なんでも、受験シーズンは自殺率が多いらしく、精神的に不安定になる学生が多いと聞き、最初は精神病などと言われ怒り気味の父でしたが話を聞いている内に納得していました。
しかし、メンタルケアを受けるほど受験鬱になっている自覚はないので、案の定、一度だけ紹介された内科へ訪れたのですが、
「受験生にはよくあることなので、ご両親がしっかり支えて上げてください。あとは、規則正しく食事や睡眠をとらせてあげてください。運動することもストレスを和らげてくれます」
等の在り来たりな問診で終わりました。
それからは規則正しく、隠居老人のような生活を家族三人で送り、私は見事第一志望に合格することができました。
両親も泣きながら祝福してくれたのを覚えています。
ただ、両親には内緒ですが、あのアパートの夢は今でも見るのです。
数ヵ月前まではただ揺られている人影だったものが、今では階層を変え、4階、3階、2階、1階と、なぜだか私に近づいているように感じます。
それから、中学の卒業式が終わった二日後、私達家族は念願の一戸建てに引っ越すことが決まり、荷造りに追われていました。
以前の団地から車で10分ほどの距離なので、正直生まれ育った街からそう変わらない立地は有り難かったです。
この団地とも今日でお別れです。
名残惜しくもありますが、最後の一夜をここで過ごします。
ふっと闇夜に抱かれるように夢に入り込むと、またあのアパートが対岸にあります。
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