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心霊

pikoさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

お化け屋敷のお化け
長編 2022/05/06 17:40 2,946view
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あれは確か友達と共通の知り合いがいる大学の学園祭に行った時のこと。
私は友達のYと一緒に某私立大学に赴き、その大学の友達Mを加えた三人で構内を回っていた。
と言っても一番はやっぱり食べ物屋巡りで、中でもスイーツ系は完全制覇する勢いで食べ尽くしていったと思う。

時間の殆どを飲食に継ぎ込んでいた私達は、ライブステージで大々的に行われるパフォーマンスやクイズ大会なんかを遠目に眺め、極力体を動かさずに済むような催しには暇つぶに参加したりもした。

その結果、私達が辿りついたのがこの手のイベントで花形となるお化け屋敷だ。

広めの教室で構成されたお化け屋敷は、入口から5から6回ほど折り返して進むといった、単純ながらその短い距離の間に様々なビックリポイントが仕掛けられている出来の良さから、割とポジティブな口コミが飛び交っていた。

私は本物の幽霊なんかは苦手だが、この手の楽しむアトラクションは好物の部類に入る。
加えて、このお化け屋敷は中でクイズが出題されるらしくい、それに答えると割引クーポンが貰えると聞く。
YとMを誘いさっそく入場待ちの列に並び、今か今かと心待ちにしていた。

漸く私達の順番が来ると、どうやら中の中継ポイントでスタンプを押す方式らしく、押印する欄と出題された問題の答えを書き止める欄が揃えられた紙切れを一枚Yが代表で受け取り、いざ黒い窓掛けを潜り中へ踏み入る。

当然と言えば当然だが、中は足元や進行方向を示す微光がぼんやりとしているだけで、重々しい雰囲気に包まれた空間は少しだけひんやりと冷たく感じた。
肝試しに定番のBGMが掛けられているのか、微かに音楽が流れている中、私達は道なりに進んでいった。

古井戸の置物から音が聞こえてきたので警戒しながら覗いてみれば、その隙を突いて後方から白装束に身を包んだ幽霊役が抱き着いて来たり、突然足首を掴まれたと思えば備品のロッカーの中からドンドンとけたたましい音が鳴り続けたり、緩急をつけたアクションの数々は概ね満足の行く仕上がりだ。

私達は怖いながらも楽し気に可愛い悲鳴を上げて逃げるように進んでいった。

中継ポイントだろう折り返しまで進んだところで、手作り感満載の台座を見つけ、卓上にスタンプが置いてある事に気づいたYが駆け寄る。
どうやらここで押印し、ちょっとした問題が記されたプレートがある事からクイズもこの場でやるようだ。
MもYに連なりさっそくスタンプを押して問題を読み解いていく。

私はと言えば、所々に置かれた作り物に関心を抱いていたので、クイズは二人に丸投げして、この素晴らしい小道具の数々を一つ一つ見学していった。
雰囲気作りの為に設置された草木を始めとし、エリアを区切る外壁などは元々絵柄を印刷したクロスをダンボールに貼り付けているのか、それなりに完成度が高い。

その中でも蝋人形のような等身大の人型、白い襦袢を着た髪の長い女性はなかなかリアルに作り込まれていて、お化け屋敷に欠かせない雰囲気づくりを一役買っていた。

私はその人形に近づいて顔を間近で覗き込む。

すると背中にピタリと何か温かい感触が生まれたので、ビクッと身体を跳ねさせながら「YかMかな?」なんて想定して頭だけを動かして振り向く。

意外にも、そこには私の背中の肩甲骨辺りに顔を埋めた女性らしき小柄な人が佇んでいた。

女の私より頭一つ低いせいか、その女性の頭頂部を見下ろす姿勢で均等に流れた綺麗な分け目をまじまじと見つめる事ができた。

ただ、その女性は私に密着した状態で何をするでもなく、ただ顔を埋めたまま微動だにしないのだ。

「あ……」

私は「あの」と声を掛けようとしたが、どうにも声が出ない事に気づいて狼狽える。
それどころか絶妙に振り向いた状態のまま金縛りにあったかのように体が動かない。

すぐそこでは私に背を向けるようにして、台座に体を向けて出題された問題に集中しているYとMがいるのだが、出題されたプレートと答案用紙を吟味していることから私を見ようともしない。

私が必死に声を出そうとしていると、女性がモゾモゾと顔を動かし始め、徐々に顔を上げようとするのが見えた。

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