それはゆらゆらと
投稿者:piko (6)
長編
2022/01/23
13:50
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しかし、今夜は少し違うようです。
アパートの1階のエントランスから例の人影がゆらゆらと肩を揺らしながら芋虫並の足並みで姿を現しました。
ぺた、ぺた、ぺた。
まるでゾンビのようにゆっくり一歩を踏み込みます。
ゆら、ゆら。
私はそれが出てくるのを待ち望んでいるのか、窓辺から下を見下ろしして、あわよくば人影の表情が見たい欲求にかられていました。
人影は道路を渡りこちら側にやってくると、私がいる建物の前で止まり、ゆっくりと上を見上げました。
「あっ」
目が合うと、人影に顔があることがわかりました。
生気のないやつれて虚ろな目をした、私の顔が。
あれは精魂尽き果てた未来の私だと思いました。
偽物の私はだらしなく口を開いたまま恨めしそうに私を見上げています。
目が離せずにいると、偽物は油の切れた機械人形のようにギギギと首を真横に曲げ始め、次第に顎が十二時に向きます。
まるで逆さ吊りにした落ち武者のように長い髪が髭のように垂れ下がり、大きく口を開けて、
『あああああああああああ』
と唸るのでした。
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