クローゼットの中身
投稿者:piko (6)
私が一人暮らしをして一ヵ月もしない頃、いつもの様に就寝していると妙な音が聞こえて目を覚ましました。
ギリギリギリ…、という何かを締め上げるような音と、掠れた老人の短い声の様なものが聞こえてきたのです。
その音は断続的に鳴っている様で、寝付くにはあまりに不快なそれが気になって、私は音の正体を助かめるべくベッドから起き上がりました。
常夜灯を点けているおかげで視界は開けており、家具の配置から足元に転がる小物まで見えていて、私はとりあえず立ち上がって耳を澄ませ、音の出所を確かめます。
僅かな音源を頼りに耳を傾け、その音が強まる方向に体を傾けていくと、どうやらその音がクローゼットの方から聞こえてくる事が分かりました。
クローゼットの反対側は洗面所やトイレがある為、トイレや風呂場で水でも出しっぱなしにしていたかと思い、一先ず廊下を覗き込んで耳を澄ませるも、やはり音は洗面所の方ではなくクローゼットの方から聞こえている事が確定しました。
しかし、クローゼットには音が出そうな類を押し込んだ覚えもない。
私は一瞬隣人の物音かなと思い、壁紙に耳を当ててみたけど、やっぱり音は隣室というよりクローゼットから聞こえてきている事がより濃厚になっただけでした。
私はクローゼットの前に立ち、耳を傾けてみます。
ギギギ……。
ウッ……ウウ……。
音がよりはっきりと聞こえてきたので、思わず嫌な気持ちになりました。
音の方はともかく、老人が呻く様な掠れた声はどうしても嫌な想像を掻き立ててしまうので、クローゼットを開けるかどうか躊躇ってしまいます。
しかし…。
ドン!
単発の衝撃が走ったかと思えば一瞬扉が浮いたように弾んだのです。
端的に言えば、クローゼットの奥から何かが壁を叩いた様な、そんな印象を受けました。
私はすっかり竦んでしまった気持ちを振り解き、クローゼットの中を確かめる事に決めます。
今思えば、万が一泥棒や変質者が潜んでいたらかなり危険な行為だったように思えますが、この時の私は正常ではなかったのでしょう。
観音開きの扉を引いて開けてみると、暗がりに夜光が差し込み、その中身を露にしました。
クローゼットの上部に取り付けられた金属製のハンガーポール。
その中央辺りに長い布切れを結んで首を括った男の人がそこにいました。
「きゃあああっ!?」
私は咄嗟に金切り声に近い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちます。
そのまま腰が抜けた様に後退しつつも、クローゼットの中を見上げると、
『ウウ……アウ……』
と、顔中から体液を垂らし苦悶の表情を浮かべる男が私を見下ろしながら呻いている姿をはっきりと見てしまったのです。
するとその男は突然ジタバタと手足をばたつかせるのですが、暴れたかと思えばすぐに力を失った様に大人しくなり、電池が切れた様に静まったまま動かなくなりました。
私は心臓をバクバクさせながらスマホを探し求めるのですが、スマホを手にした直前にあの男が本当に人間なのかどうかがふと気になり、徐に振り返って確かめようと思い立ったのです。
おずおずとスマホを握って男の顔を覗き見ようと思ったその時、男は突如として刮目し血走った目を向けて、
いや怖いよ
その後どうなった?