それはゆらゆらと
投稿者:piko (6)
そこで違和感に襲われた私は、落ち着きなく布団を剥ぎ、ゆらりと窓辺の灯りに吸い寄せられるように立ち上がります。
何かが私を見ている。
不思議とそう確信できた私は、神妙な面持ちでカーテンに手を掛け、徐に覗いてみました。
私の視線の先には帰りがけに見かけたアパートが建っています。
今更ながら、私の自室も道路側に面した位置にあるので、窓を覗けば当然真向かいにあのアパートの正面側が見えるのでした。
私は目を凝らし、ちょうど私の目線の高さ、アパートの5階の踊り場を見つめます。
黒い人影が一つ、ゆらゆらと肩を揺らしていました。
私も釣られるようにゆらゆらと同調した動作を繰り返します。
例えるなら操り人形のように、規則的に左右へ宙ぶらりんの状態です。
首がガクンと下がり、魂がない人形のように、ただ虚空を見つめてゆらゆらと。
暫くすると、人影がゆらりと踊り場の手摺の前まで近づき、そこから歩道を見下ろしています。
合せ鏡のように私も窓を開けて下を覗き見ました。
舗装されたただの歩道がそこにあります。
視界の隅で、人影が踊り場から飛び降りた気配がしました。
何故だが私も人影に続いて飛び降りなければならないと考え、窓枠に足を乗せました。
「何やってんの!?○○ちゃん!」
その時、母の怒号が背後から私の脊髄を貫くように響き渡り、催眠術が解けた演者のようにハッと顔を上げた私は、窓から半身を乗り出した体勢に気がつきパニックになり上擦った悲鳴が出ました。
「ああ、ひっ……!?」
重心が外に傾いたので両手で窓枠を掴んで体を支えると、母が後ろからジャーマン・スープレックスを仕掛けるように私の腹部に腕を回し、そのまま私を一本釣りしてベッドに沈めたのです。
布団とマットレスのおかげで怪我はなかったのですが、母の力が強すぎてどうにも肺が苦しくて暫く咳き込んでしまいました。
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