それはゆらゆらと
投稿者:piko (6)
あれは私が中学3年の梅雨時の頃だったと思います。
受験真っ只中の私は第一志望校に受かりたいが一心で起きている間のほとんどを学業に費やしていました。
朝早く学校で自習して授業に移り、放課後から下校時刻ギリギリまでは図書室に籠ってまで勉強し、帰宅後も深夜を跨ぐまで勉強漬けの日々を送っていたと思います。
私の家は団地住まいで裕福ではないですが、私の学費を払えるほどには貧しくもないといった一般的な基準よりはやや下の方の家庭です。
ただ、両親が共働きで私の高校進学と同時に念願のマイホームを購入する計画らしく、それもあって私はなるべく学費が安くて学歴も平々凡々な公立校を目指していたのです。
と言いつつも私の目指す公立校もなかなかの偏差値と倍率で、担任からも油断せずに望めばまず受かるだろうとの打診は受けていました。
と、前置きが長くなったのですが、私が体験した出来事は受験に追われている真っ只中のことでした。
いつも通り、下校時刻まで自習をし終えて、夕焼けが沈みうっすらと闇夜が空を包み始めた頃、私は傘をさして車通りの多い歩道を歩いていました。
傘が弾く雨音、水を切る自動車、梅雨の世界観が私は大好きで、この雨の世界に浸るように鼻唄混じりで自然と早足になっていました。
ちょうど自宅がある団地が見えてきたので何気なく顔を上げた時のこと。
片側二車線と中央分離帯を挟んだ向かい側に5階建てのアパートがあるのですが、正面に見える5階の踊り場、そこに人が佇んでいるのが見え思わず足を止めて見入ってしまいました。
人間と思しき人影はゆらゆらも肩を揺らしている動作を繰り返していると、頭なら滑り込むように踊り場から身を投げ出したのです。
「えっ!?」
思わず傘を上げ首を伸ばすようにして転落先を覗きますが、私の身長では街路樹などが視界を遮り見えませんでした。
ただ、向こう側の歩道にも通行人はいたので、人が飛び降りたのなら騒ぎになる筈です。
しかし、誰一人アパートの前で立ち止まることはなく、悠然と通過していきました。
私は疲れて幻覚でも見たのだと思い、釈然としない面持ちで帰宅しました。
その夜、日課の勉強を終えたのでそろそろ寝ようと消灯した時のこと。
それなりに交遊関係があった私は、未読だった友人とのLINEに一通り返事を送り、布団に潜り込みました。
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