面打ち師の恨み
投稿者:chika (8)
短編
2022/01/22
20:44
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私の父は有名な面打ち師でした。
家には祖父が打った能面が所狭しと飾られ、子どもの頃から見張られているような息苦しさを感じていました。父自身も能面のように無愛想で無口な男で、優しく朗らかな母が何故この人と結婚したのか理解できませんでした。
私が10歳の時父は肝臓がんで亡くなりました。1年後に母が再婚して養父ができました。養父は私が幼い頃から家によく遊びにきていた父の友人で、細かい事にこだわらない大らかな人でした。
ある日私が二階の自室で寝ていると母の絶叫が響き渡りました。肝を潰して階段を駆け下りれば、廊下にへたりこんだ母が「能面が歪んだ」とヒステリックに喚いていました。隣には養父が呆然と立ち尽くしています。
そんなまさかと思って養父と母の寝室に入った私は、鴨居に掛けられた能面の顔が、病床で衰弱しきった父の顔とすり替わっているのを目の当たりにしました。父の目は恐ろしく吊り上がって憤怒と嫉妬に歪み、口は耳まで裂けています。
この一件以降、母は父の形見の能面を片付けてしまいました。
大人になってから当時の記憶を呼び起こし、廊下で腰を抜かした母と養父が下着姿だった事実を思い出しました。父が能面を通して見た光景を想像すると、同情せずにはいられません。
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